5、拘束
時は少しさかのぼり、レイが陽動作戦を始めようと大森林に身を潜めていた頃。
マイロはポポルック族の所に戻り、静かに暮らしていた。
心の中は平穏では無かった。
だがポポルック族に心配させまいと普段通りに振舞っていた。
「マイロドシタ。」
族長がマイロの顔を覗き込む。
マイロは思わず苦笑して「大丈夫です。」とポポルック語で返答した。
いつも通り振舞ったつもりだが、族長には見破られたようだ。
心配させまいとしたつもりだったが、結局心配させてしまった。
マイロは少し反省しながら、いつも通り研究室へと向かう。
最近人間の死体が手に入らなくなった。
以前は定期的に遺跡で手に入れていた。
おそらく帝国軍が用意したものだろう。
だがガイライが死んだ今、レイを探しに来る物好きな冒険者以外ここには誰も来ない。
マイロが望んだ静かな時間が過ぎていく。
マイロが研究室で物思いにふけっていると、族長の鋭い叫び声が聞こえた。
急いで研究室から飛び出していく。
絶対に会いたくなかった黒い鎧の集団が、ポポルック族の家を包囲していた。
1人の兵士が族長の首を掴んでいる。
族長は頭から血を流し、苦しそうにもがいていた。
「放せ!」
マイロはナイフを兵士目掛けて繰り出す。
だが、アダマンタイト製の鎧が軽々と弾き、ナイフは粉々に壊れてしまった。
「マイロ・ガルアンディールだな。」
兵士の言葉にマイルは止まった。
ガルアンディール、皇帝からもらった名前を言われるとは。
兄は喜んでいたが、マイロは呪われた名前だと、今まで誰にも名乗らなかった。
「だったら何だ。族長を放せ。」
兜に隠れて兵士の表情は見えないが、ニヤニヤ笑っているのが声から伝わってくる。
マイロは全身の血が沸き立つのを感じた。
「皇帝がお呼びだ。来い。」
マイロは兵士を睨みつける。
「族長を解放したらな。」
「断ったら。」
「私はここで死ぬ。」
2人はしばらく睨みあっていたが、兵士は舌打ちをすると族長を地面に叩きつけた。
マイロは悲鳴を上げて、族長に駆け寄る。
万が一の時のためにと持っていたポーションを族長に飲ませた。
「イクナマイロ。」
血が止まった族長がマイロの服を掴む。
「族長。今までありがとうございました。」
マイロは族長の震える手を両手で優しく包む。
そしておもむろに立ち上がると、「行こう。」と遺跡の方角に歩き出した。
「お前ら、絶対ポポルック族に手を出すな。後悔するぞ。」
「心配するな。汚ねえゴブリンなんざ近寄りたくもない。」
兵士たちはマイロを連れて遺跡へと向かう。
地面に伏せた族長の元に心配したポポルック族が集まってきた。
族長の手には丸めた紙が握られていた。




