3、魔族たちの陽動
3交代で休みなく掘っていく。
魔族領へと続く山道は未だ開通せず、帝国軍は一刻も早く開通させようと掘り進めていた。
レイとライバが塞いだ土魔法は非常に固く、ミスリル合金のつるはしは簡単に壊れてしまう。
魔法で壊そうとしてもビクともしない。
帝国が貴重なアダマンタイトを使用して作った黒く光る高級つるはしを手に、兵士たちが黙々と岩を削っていく。
「うおっ。」
先ほどまでつるはしを振るっていた兵士が交代を終え宿舎に向けて歩き出した時、前方左側の空が一気に明るくなった。
もうすぐ夜だというのにすごく明るい。
帝国の北部で何かが起こったのだろう。
「邪魔だ。早く行け。」
上官の言葉に、のろのろと簡易宿舎に戻る。
風呂も付いていない掘っ立て小屋のような所だ。
兵士は誰にも聞こえないくらいの小さい声で上司に悪態をつきながら歩いて行った。
「何で俺がこんな地味な。」
上官も悪態をつきながら部下たちの作業を見守る。
魔族を狩るという大変栄誉な任務に就いていたのだが、魔族たちの逆襲に遭い、魔族領へと続く道を完全に塞がれてしまった。
司令官からひどく叱責され、1か月以内に魔族領への道を開通させなければ刑罰が待っている。
「早くしろ!チンタラするなあ!」
部下たちを木刀で殴っても気が晴れない。
そんなイライラする上官の頭に突然魔法が降り注いだ。
アトラントはずっと空を見つめていた。
ザムからの連絡では、もうそろそろレイたちの攻撃が始まる頃だ。
ザムから陽動の話を聞いた時驚いたが、自分たちもその作戦に参加させてくれと申し出た。
自分たちのせいでレイが咎人になってしまった。
帝国へと続くレイとライバが塞いだ山道を再び通して帝国側に行こうとしたが、ザムが断固として許さなかった。
そのため完全に塞がれている箇所に作った足場を使い、上から攻撃を加えることにする。
向こう側を偵察するために作ったものだ。
周りにはかつての自分の部下たちが集まっている。
キングリッチ討伐の時、共に戦った者たちだ。
帝国軍の襲撃で数は半分ほどに減ったが、自分を慕って魔族になっても付いてきてくれている。
足場の上には魔法を使える者たちが杖を携えて待機していた。
「来た。」
少し興奮気味にアトラントは言った。
レイの光魔法が上空に放たれ、魔族領からもその光が確認できた。
アトラントは持っていた剣を掲げ、高らかに宣言する。
「撃てーーーー。」
足場から帝国の方角へ魔法が次々と撃たれていく。
向こう側で岩を掘っているかもしれない兵士たちに当たるよう、少し上向きに撃っていく。
足場の下からは魔法を使えない魔族たちが雄たけびを上げている。
帝国側の様子は全く分からない。
だが少しでも損害を与えられたら十分だ。
陽動になればと願いを込める。
レイが光魔法を上空に放ったのと同時刻、アトラントたち魔族も帝国への攻撃を開始した。




