30、後始末
スタンピードが発生してから2時間後、全く人気のない旧国境の町。
ケガ人は馬車に乗せられ、隣の領に向けて走り出した。
最低限の回復だけはしているので、一命は取り留めたようだ。
「おう、これで最後か。あらよっと!」
威勢の良い声と共に、町の中央で暴れていたミスリルゴーレムが倒される。
「建物内どうだ。」
「ばっちし。誰もいなくなった。」
「ダンジョンはどうだ?」
「こっちもいないよ。」
「荷物どうする?」
「ほっとけ。」
「空の方は?」
「隣の領に行ったドラゴンはいないよ。」
建物やダンジョン内の状況を確認する。
タリカ発案のスタンピード作戦が成功し、スミスは胸を撫でおろす。
レイを捕まえようと集まった貴族や冒険者たちだが、ミスリルゴーレムやブラックドラゴンを倒せる者がいなかった。
かろうじてドラゴンを倒せる集団はいたが、ダンジョン1階層のドラゴンを1匹2匹倒すくらいで全然間引きが出来ていない。
ダンジョンは適度に間引きしない場合、スタンピードが発生する。
だからお金大好きのローミも高い金でAランク冒険者パーティーを雇って、ペガルダンジョンの間引きをしていたのだ。
いつも間引きを担当していたレイの奴隷たちは貴族や冒険者に邪魔され、ダンジョン内に入ることが出来なかった。
タリカはスミスから町に貴族や冒険者たちが集まっているがあまり強くないことを聞き、この作戦を思いついたようだ。
スミスたちがダンジョン外にあふれ出した魔物を全て倒した1時間後、タリカがのんびりと砦から出てくる。
「全員いなくなったか。」
「ああ。元の静かな町に戻ったぜ。」
「それは何より。」
タリカがニヤッと笑う。
その顔は悪人そのものだ。
スタンピードで貴族たちを追い払う案が出た時、スミスは犠牲者が出ることを真っ先に心配した。
だがタリカにそれを言うと、「弱い奴が悪い。」と真顔で言ったことをスミスは忘れられない。
多少犠牲が出ても構わないと言われた。
タリカは確かに有能で支配者として便利なスキルも持っているが、国王になることを反対する貴族の気持ちがスミスには少し分かった。
飄々としてお調子者だが、時々打算的で冷徹な面を覗かせる。
タリカがスミスと会話していると、どこからともなく豪奢な馬車がやって来て砦に横付けされた。
それを合図にしたかのように、砦からアッカとジャイルが出てくる。
「じゃあ兄さん。気を付けて。」
「お前もな。失敗したら事だ。」
「俺はまだしも、レイがな。」
2人はガッチリと握手をし、アッカは馬車に乗り込んだ。
馬車の窓からアッカが顔を覗かせる。
「いいか。もって3カ月だ。それ以上引き延ばすのは無理だ。」
「分かった。それまでに帝国をどうにかする。」
「頼んだぞ。お前たちに刃を向けたくはない。」
最後のアッカの言葉を合図に馬車が走り出す。
タリカはアッカを乗せた馬車が見えなくなると、砦に踵を返した。
珍しく険しい顔をしており、思わずスミスが声をかけた。
「大丈夫か。」
「まあな。」
「3カ月って。」
「王国軍がこの町にやって来るまでだ。貴族連中もしばらくは混乱して怯えるだろうが、反乱のことを聞けば騒ぐ。兄さんは軍を差し向けるしかない。」
「短いな。」
「長くて3カ月だ。猶予は無い。」
それだけ言うと、タリカは砦に入ってしまった。
タリカのその言葉にスミスは背中に冷たいものを感じた。
長くて3カ月。
その間に何が出来るのか。
スミスはしばらく佇んでいたが、肩をすくめるとエラの待つ家に帰っていった。




