25、師匠と弟子
レイは魔法袋から手紙を取り出すとジャイルに渡した。
「これ、アトラント様から。」
レイの言葉にジャイルの眉がつり上がる。
ジャイルは剣聖アトラントに幼少期剣術を習っていた。
彼の洗練された剣の腕は、アトラントから教わって身についたものだ。
ジャイルは「嘘」という言葉をグッと飲み込む。
「アトラント様はご健在か。」
「はい、というか、いいえ、というか。魔族になってしまいましたが、今でも魔族領に住んでます。お子さんもいます。」
「そうか。」
ジャイルはそう呟くとゆっくりと封を開け、それほどページの無い手紙を何回も読み返していた。
読み返しているうちに、目にうっすらと涙が浮かんでくる。
ジャイルは時間をかけて読み終えると何回も瞬きした。
泣いていることを隠したかったのだろう。
「確かに。アトラント様の手紙だ。アトラント様と私しか知らない事が書かれている。レイ殿が先ほど話した内容も書かれていた。」
ジャイルは丁寧に手紙を封筒にしまうと、手近にあった椅子に座った。
「本当なんだな。魔族のこと。アトラント様が魔族になってしまわれたこと。」
レイが頷くと、ジャイルは顔を覆った。
「神が。何故。」
自分の信仰心と現実との狭間で苦悩しているのが分かる。
レイはジャイルにおずおずともう1つ、アトラントから預かったものを渡す。
アトラントの指にはめられていた指輪で、ジャイルに渡してほしいと言われていた。
「ああ。これはまさしく。」
呻くように言うと、ジャイルは両手で指輪を包み込むように持ち黙ってしまった。
しばらくして立ち上がると、部屋から出ていく。
レイは戸惑った表情でタリカを見た。
タリカは静かに口を開く。
「そっとしておこう。こっちはこっちで今後のことを話さなきゃいけない。」
レイはジャイルが座っていた椅子に座る。
ロックウッドやジャミも、思い思いに座ってタリカが口を開くのを待つ。
レイが座って待っていると、腰に付けた通信袋が光っているのに気が付いた。
レイが通信袋を掴んで魔力を流すと、ポッタの小さい声が聞こえてきた。




