22、ロックウッドの決断
レイはロックのキツい冗談に思わず苦笑する。
「久しぶりだな、ロック。入れてくれるか。話がある。」
「ああ。何となく分かるが。」
笑顔のロックがレイたちを中へと招き入れる。
相変わらず無骨な要塞だと思っていたが、マオハリたち魔族の襲撃で壊れた部分はレイの奴隷たちが修理したため、少し過ごしやすくなっている。
岩をくり抜いたような要塞だったが、各部屋の中には板が敷き詰められ、電球が備え付けられていた。
レイたちは前にも来た大部屋に入り、ロックウッドの面々と車座になって座った。
「ドインの部下や俺の奴隷たちは元気か。」
「今は寝てるわね。ここって夜の娯楽が無いから寝るしかないのよ。」
レシーアが微笑む。
サクソウがタイミングよくお茶を持って来てくれた。
一口飲んだロックが話始める。
「お前の奴隷たちが来てくれて心強かったんだがな、魔族も魔物も全く出ないから暇なんだよ。」
「良かったな。」
「まあな。」
ザムは契約通り魔族を抑えてくれていたらしい。
レイも出されたお茶を口に含んだ。
この辺りで採取した野草なのだろう。
口の中に青臭さが広がるが、後味がスッキリしている。
ロックは笑顔だったが、急に真剣な表情になった。
「で、どうして指名手配されてんだ。タリカに聞いただけで詳しい理由は分からん。説明してくれるんだろうな。」
「ああ。今から話す。」
レイは思わずジャミを見た。
ジャミは既に女装をしておらず、出されたお茶を黙って飲んでいる。
ジャミが何も話さないので、レイはサクソウを見た。
ギルガ神聖国が関わっているため、どこまで話すか迷う。
レイはサクソウがいるため、ギルガ神聖国が関わっていること以外、かいつまんで話した。
ロックウッドのメンバーは黙って聞いていたが、ゴザが口を開く。
「にわかには信じられませんな。心の臓に魔石を縫い付けるなんて。」
「でもレイたちは見たんでしょう。」
レシーアの優しい口調に、レイだけではなくショウダイたちも頷く。
「でレイはこの後どうすんの?色んな国から色んな冒険者から狙われるよ。」
ミナはレイの話を信じる信じないよりも、今後どうするのか心配しているようだ。
「だな。ここで匿うにしても逃げ回るにしても、解決にはならんぞ。」
確かにロックの言う通りだ。
このままでは死ぬまで逃げるか隠れるしかない。
レイたちは自分たちの身の潔白を証明するか、ラガッシュ帝国とギルガ神聖国の2つの大国と戦うしかない。
「どうするか。」
今更ながらに大変な事になったと思う。
ザムの提案を拒否して魔族と戦い続けた方が、何も知らなかった方が良かったかもしれない。
レイが悩んでいる様子を見たロックは、強い意志を持った表情で言った。
「協力するぜ、レイ。」
「ありがたいが迷惑をかけるのは。」
「おい。お前のおかげで俺たちはここにいるんだ。俺たちは下手すりゃもう死んでいた。」
「そうです。俺は右腕を治してもらいましたし。」
「レイさんたちがローミ領に来た時。」
サクソウが穏やかに会話に加わる。
「私は決意しました。命の恩人に、一生つき従うと。私たちは何があっても味方です。」
ミナが明るく話し出した。
「だね。いっぱい助けてもらったもんね。あそこで私とレシーアがレイたちに助けてもらえなかったら、今頃死んでたか犯罪奴隷として戦って死んだか、だもんね。」
ミナの言葉にレシーアも頷いた。
レイはロックウッドの面々の申し出が正直嬉しかった。
だが、それでも今後どうするのか解決策が見当たらない。
迷って口を閉ざしているレイに、ロックはある提案をした。
「なあ。タリカの所行かねえか。あいつの協力は必要じゃねえのか。」
「だが、他の国の大領主を巻き込むには。」
「タリカはレイの上司みたいなもんだろ。レイが逃げ回ったままじゃ、タリカの地位も危ない。だったら洗いざらい話して協力してもらった方が良いんじゃねえか。」
確かにタリカ領の荒れ地を開拓したのはレイだ。
レイが町長でタリカが領主の関係で、レイが咎人となったらタリカがアッカディー王国から責任を追及されるかもしれない。
レイは小さく頷いた。
明日の朝タリカ大領の領都に行くことになった。




