20、お留守番
レイの家の地下室にある移動の魔法陣が光る。
レイたちが到着したが、辺りは闇に包まれて一切見えない。
キミイが弱い光魔法を放ち、周囲を照らした。
「本当に完全に塞がれてるな。」
レイは周囲を見回しながら呟いた。
以前よりも空間が狭くなっており、レイやチルの家に繋がる扉が一切無い。
チルの言う通り、完全に塞いだようだ。
「ライバさん。」
「はい。」
久しぶりに子猫に会えるとウキウキしているライバに、レイは非情な言葉をかける。
「ショウダイたちとここにいてくれないか。」
「嫌です。」
即答で拒否される。
「ライバさんも魔族領で一緒に戦ってる所を見られている。変装も出来ないから連れて行けない。」
「そんな。妻にも息子にも会えないなんて死んでしまいます。」
ライバは今にも泣きそうだが、レイも譲る気は無い。
「俺たちが会っていることに気付かれたら、ライルたちは咎人を匿った罪で捕まる。そうなってほしくないんだ。」
「くう~。レイさんの件が片付いたら一番に会いに行きますぞ。」
「良いぞ。約束だ。」
「必ずですぞ。」
ライバとショウダイたちはここに残ってもらう。
大所帯で行くと目立つからだ。
いくら変装しても目立ってしまっては、気付かれる可能性がある。
「じゃあ、行ってくる。」
「レイさん、気を付けて。」
「いってらっしゃい。」
ショウダイたちに見送られてレイはライバ領の魔法陣へと飛んだ。
キングウルフたちは狩り中なのか住処にいなかったため、そのまま出て走り出す。
ライバの町に着くと、一目散にライルのいる屋敷へと向かった。
「あっ、あれ。あ、レイ…ナさん、お久しぶりです。」
レイナこと女装したレイに会ったことのあるライルがたどたどしく挨拶した。
レイナはニッコリしながらライルに挨拶する。
「お久しぶりです。ライル様。魔獣の様子を見に来ました。」
暗にタックたちに会いに来たことを伝え、案内してもらう。
「久しぶりにゃー。」
「にゃああああああ。」
「ワッフン。」
レイの姿に気が付いた3匹が足元に駆け寄ってきてスリスリしている。
「久しぶり。元気だった?」
「うん、オリたちの仲間増えたんだよ。」
タックが嬉しそうに返事した。
案内されて猫ベッドに近づくと、前回見た子猫たちよりも更に小さい子猫がベッドの中でスヤスヤと寝ていた。
「かわいいなあ。」
レイは思わず笑みがこぼれる。
今は指名手配中の身だが、ライバの言う通りすべてが終わったらまた来よう。
「ライル様、その後はいかがですか。」
「はっはい。エル・キャットの皆様も順調に育っています。」
「そうですか。良かったです。」
レイナはにこやかに後ろを振り返ってセインに言った。
「セイン様にお願いが。」
「何だ。」
「セイクルズの皆さまは、ここでエル・キャットとフェンリルの警護をお願いします。」
「はい?」
戸惑うセインにレイナは話を続けた。
「エル・キャットとフェンリルが従魔であることは知れ渡っています。ここも安全ではなくなるかもしれません。もしもの時には迷いの森へお逃げください。信頼できるあなた方にしか頼めないのです。」
レイのお願いにセインは静かに答えた。
「分かった。無事でいろよ。」
「はい。ねえ、タック、フクン、アレス。」
レイナの口調で何を言われるのか分かったのだろう。
タックたちは悲しそうな顔をしている。
「もう少しだけ、ほんの少しだけ、お留守番お願いね。必ず戻ってくるからね。」
レイナは3匹の頭を愛おしそうに撫でると、側にいた赤毛のふてくされたような表情の少女と屋敷を後にした。




