33.ボッタクリポッタ
2匹をおんぶして村に戻り、汚れた猫の服を着替えさせようとレイとトムは家に帰った。
すると突然鍋が店から飛んできてトムの頭に当たった。
「いってえ。」
トムはうずくまり頭を押さえている。石頭の彼でも相当痛かったようだ。
「出ていきな!ボッタクリ商人から買うもんなんざねえ。」
店のカウンターを見るとマールが男に怒鳴り散らしている。
「まったくもう。マールさん。今スグ買わないと無くなって後悔しますよ。」
器用に鍋を避けたその男は、色が白く恰幅がかなり良かった。丸っこい手を揉みながら、笑顔で話を続けている。
店の前に止まっている男のものと思われる馬車には、ぎっちり荷物が詰まっていた。
「どうしました、マールさん。」
思わずレイが声をかけた。
「魔力ポーション!500Gだって!どうよこのボッタクリ!」
良い品質の魔力ポーションでも200Gだ。品質の分からない魔力ポーションの値段がその2.5倍もする。
「最高品質ですよ、これ。王都から買い付けるよりも、はるかにお安いですよ。」
男はニコニコしながら話を続けるが、マールは一切買う気が無いと分かるとレイの方に急に向き直った。
「お孫さんですか。まあカッコいい。頭も良さそうで。あら、素晴らしい装備をお持ちで。さぞかし有能な冒険者とお見受けする。どうですか。私ポッタと申しまして。冒険に必要な武器・防具・消耗品、たくさん取り扱っております。アウド領にお越しの際は、是非私のお店にお越しください。お安くしますよ。あとその装備…。」
一方的にまくし立てるボッタクリ商人ポッタだったが、怒りが頂点に達したマールが商品の鍋を再び投げつけようとしているのを見て、ササッと馬車に飛び乗った。
「それでは私は王都にしばらく滞在していますので。では。」
そして凄まじい速さで村を出ていった。
ポッタの後ろ姿を唖然と見ていたレイがマールに問いかける。
「珍しいですね。王都より先にこっちに来るの。」
通常商人たちはキッコーリ村を素通りし、王都へ物を売りに行く。その後帰りの馬車を少しでも軽くするためキッコーリ村に立ち寄り、王都で売れ残ったものを安くマールのよろず屋へ売るのだ。
「キッコンが大量に魔力ポーションを買ったのを聞きつけてね。高く売れると思ったらしいね。もう必要ないのに。腹がたって仕方ないさね。」
トムに水袋を渡しながらマールはまくし立てた。
「あんたたち早く帰ってきたね。はああクサクサする。店なんてやってられっか。私しゃ木こり亭で飲むよ。」
猫たちの服を着替えさせて、3人と2匹は木こり亭へと向かった。
マールが朝から酒を飲み始め、レイとトムに絡んだのは言うまでもない。
キッコーリ村が日常を取り戻す一方、王都では異変が起こっていた。




