9、神の塔
風圧が強い。
ディーディーの力強い飛行で、ぐんぐんと東に進んでいく。
馬車の数十倍もの速さで1時間も経たないうちに魔族領を抜け、今は大森林の上空あたりにいる。
大陸を囲むようにそびえ立つ山脈がはるか下に見える。
かなりの高さがあるのだが、高すぎるため下の様子が分からない。
「これって下でかなりの騒ぎになってるかな。」
レイが下の様子を気にする。
ブラックドラゴンよりはるかに大きいドラゴンが飛んでいるのだ。
タリカ大領の人々に気が付かれたらかなりの騒ぎになっているはずだ。
「ゴフッ。大丈夫っしょ。ガフッ。見えてんの師匠くらいだと思う。」
喋るたびに口の中に風が入ってくるので、ジャミがゴフゴフ言っている。
ジャミの言う通り、山よりはるかに高い所を飛んでいるのでミナ以外は気が付かないかもしれない。
大森林を半分過ぎようとしたところで、目の前に高い塔が見えてきた。
レイが神の塔を見るのは2回目だ。
初めて見たのはギルガ神聖国に行った時だ。
雲を突く抜けるほどの高い塔が、ギルガ神聖国の中央にそびえ立っている。
今目の前にその神の塔が見えている。
隣にいるザムを見ると険しい顔をしていた。
「お前の敵はあの上にいるのか。」
「そうだな。だが上に行く方法が分からないんだ。」
「グレイトドラゴンに乗って行けないのか。」
「行こうとしたことはあるんだ。ディーディーと。だがこの少し上に雷雲があって上に行けないんだ。無理に行こうとしても雲を突き抜けられない。」
「どうするんだろうな。」
「親父が言うには、塔の中に階段があって登っていけるらしい。」
「っげ。あの高さまで登って。」
「そうとしか考えられないな。」
レイはまじまじと神の塔を見る。
一番上には神がいて、その神はザムの復讐相手だ。
何故復讐相手が神と分かるのか。
ザムはスキルで分かると言っていたが、全部話しているとは限らない。
何か事情があって隠しているのだろう。
「レイ。トホス王国に連絡取れるか。そこまでディーディーで行く。」
「分かった。」
レイは通信袋を取り出して魔力を込めた。
ディーディーのことをポッタに事前に言わないと、トホス王国の人々がパニックになってしまう。
幸いポッタに直ぐつながり、大きなドラゴンで行くことを伝えた。
「大きいドラゴンって…。レイさんどこまでいっちゃうんですか。」
何をいっちゃっているのか分からないが、ポッタは何故か呆れている。
ポッタにお願いして通信を切ると、レイはザムに尋ねた。
「遺跡の方に降りた方が良かったんじゃないか。」
「遺跡には帝国の転移魔法陣があるはずだ。信頼できる所にディーディーを置いた方が良い。」
「襲われないだろ。こんなデカいのに。」
「親父の大事な従魔だからな。傷一つ付けてみろ。何されるか分からん。」
アトラントはかなりディーディーを可愛がっているらしい。
元剣聖を怒らせると何をされるか分からない。
「もうすぐ日が暮れるが。」
魔族領を昼頃出発し、今は夕方だ。
「大丈夫だ。ディーディーは夜も飛べる。」
「夜通し飛ぶつもりか。」
「場合によってはそうだ。だが、今日中に着くだろ。」
「凄いなディーディー。」
休憩なしに飛んで、アッカディー王国の上空まで来ている。
確かにこの速さなら今日中に着くだろう。
「良かったな。今日中に着くそうだ。」
レイは笑顔で後ろを振り返った。
ショウダイたちも喜んでいるだろう。
「無理。とっくに気絶してるよ。」
ジャミの言う通り、レイの後ろではショウダイたちが泡を吹いて気絶していた。




