5、2種類の魔族
「俺の話っても、推測が入ってるのもあるが良いか。」
「良いぞ。ここまで巻き込まれたんだ。」
「じゃあ、魔族なんだが2種類いる。」
「2種類。」
「1つはさっき見た人たちだ。元の人間と同じ強さで回復魔法やポーションが効かない。原始の魔族と言われている。」
「だが18年前。状況が変わったんだ。」
アトラントが口を挟む。
「何があった。」
「俺が生まれた。」
18年前、キングリッチに『奇跡の男』と言われたザムが生まれた。
「それが奇跡か。」
「ああ。魔族は元は人間の死体だ。子供が産まれることは無いんだ。だが俺が生まれた。」
「それで状況が変わったとは。」
「それからだ。回復魔法が効く魔族が出てきた。」
「何故。」
「分からん。だが、ただの動く死体とは違う。レベルも上がるし闇魔法を使える奴も出てきた。」
「それは良いことでは。」
「いや。」
ザムはゴクリと唾を飲み込む。
「それまでここで隠れて暮らしてたんだ。帝国から逃れて、人間に怯えながら。でもそれから人間を襲う奴が出てくるようになった。
「シュミム王国か。」
「そうだ。数は少ない。今は帝国を攻められない。だから北の弱い国を狙う奴が出てきた。」
なるほど、魔族の考えは分かる。
帝国を無謀に攻めるより、近くの弱い国を攻めて拠点を作る方が良いかもしれない。
「でも、王国乗っ取っても帝国に攻められるんじゃ。」
ショウダイが口を挟むが、ライバが首を横に振った。
「間の大森林を通るのはほぼ不可能。魔族領からの迂回も魔物が多すぎる。アッカディー王国経由も無理でしょう。帝国がシュミム王国を攻めるルートが無い。だから魔族に狙われた。」
「そうだ。レイたちには申し訳ないが。」
ザムが視線を下に落とした。
シュミム王国は魔族の襲撃で多くの人間が命を落とした。
18年前、ザムから始まった奇跡が無ければドインは今も生きていたかもしれない。
レイたちが無言でいると、ザムはアトラントの方に振り向いた。
「親父、マオハリは死んだ。」
「そうか。」
アトラントは黙ったままだ。
2人がマオハリのことを知っているとみて、レイは尋ねた。
「マオハリとはどんな関係だ。」
「親父の一番弟子だった男だ。奴はシュミム王国からギルガ神聖国に攻め入ろうとしていた。」
アトラントが黙ったままなので、代わりにザムが答えた。
「それで7人の魔族が攻めて来たのか。」
「こっちにも事情があってね。どこからか俺の情報が洩れたみたいで帝国が攻めて来たんだ。」
「さっきにみたいにか。」
「そうだ。」
黙ったままだったアトラントが突然口を挟む。
「2か月前から攻撃が激しくなって、何人か帝国に連れ去られた。」
「2か月前。何があったんだ。」
「俺らがキングリッチを殺した。」
「魔族が作れなくなったのか。」
「そうだ。魔族を作るには膨大な魔力が必要と言ったろ。その魔力の源がキングリッチだ。」
「あの時お前、魔法陣とか何とか言ってたな。」
「あの遺跡のどこかに帝国に繋がる転移の魔法陣があるんだろ。それも壊しておけば良かったが、どこにあるか分からなかったからな。」
何故ザムが遠回りしてまでキングリッチを倒そうとしたのか、レイは理解した。
魔力の根源を絶たない限り、魔族は生まれ続けてしまう。
「倒さないとポポルック族やマイロたちが危険になってたかもしれない。最悪トホス王国も…。」
レイの言葉にアトラントが反応する。
「今、マイロと言ったか。」
「言った。」
「男か、人間の。」
「そうだが。」
「詳しくその男を。」
アトラントの迫力にレイが話を続ける。
「遺跡近くでポポルック族と暮らしてて、禁足地に迷い込んで死んだ冒険者やポポルック族の遺体を切り開いて調べてた。」
レイの説明を聞いてアトラントは動揺している。
「まずい。すぐ遺跡に行ってくれ。」
「親父どうした。」
アトラントの異変にザムが気付く。
「そいつはキングリッチの弟だ。キングリッチも元は人間。帝国お抱えの魔術師だった男だ。」




