32.マモノコワイ
防壁を完成させた村は日常生活に戻っていったが、唯一以前と異なる点は、戦える者は武器を持って魔物討伐をするようになったことだ。
村周辺の魔物はレイとトムがほぼ狩りつくしたが、繁殖力の強いゴブリンやオークはまた現れ始めている。特にオークは村を形成していた場合そこに合流されると困るので、オークを狩れる力を持つものは、全員朝から狩りへと出かけていく。
レイはトム・アアナ・タック・フクンと即席パーティーを組み、森の奥を慎重に進んでいく。
ハイオークの出現場所から、もしオークの村があるとすればキッコーリ村と王都の中間から西側に進んだ森の奥だろうと村長は推測していた。
その近辺を避けつつ、良い装備を持つレイとトム、経験豊富な元Cランク冒険者アアナ、凄まじい魔力を持つタックとフクンで、1体でも多くのオークを、出来ればハイオークを倒すことになった。
村人たちが勢いよく倒していっているおかげで、1体も魔物に遭遇することなく森の奥へと進んでいく。
前回ハイオークに遭遇した少し手前の所で、棍棒を持つオーク3体と遭遇した。
「やっぱり村があるようだねえ。」
息を潜めながらアアナが言う。
事前の打ち合わせでレイと猫たちが魔法を撃ち、倒せなかった場合にはトムとアアナがトドメを差す算段になっていた。
レイは腰に着けていた杖を取り出し、魔力を込めて狙いを定める。
「タック。フクン。良いか。」
「…………。」
返事が無いため後ろを振り返ると、タックとフクンはオシッコを漏らしながらへたり込んでいた。
レイは杖から剣に持ち替え、トムとアアナに合図をして3体のオークへと突進していく。
棍棒を振り回して応戦しようとしたオークたちだが、素早く飛び出したレイに1体は胸を深く斜め切りされた。レイに棍棒を振り下ろそうとした1体は、トムに胸を突かれて絶命する。
形成不利とみて逃げ出そうとした最後の1体は、先回りしていたアアナに頭を割られ後ろに倒れた。
トムとアアナに魔石取りと棍棒の回収を任せ、レイはタックとフクンに近づく。
2匹で抱き合ってへたり込んでいた。オシッコはもう漏らしていないが、しっぽが普段の3倍に膨らみイカ耳になっている。
すぐそばに座り、レイは優しく問いかけた。
「どうした?」
「ふ…に…。」
普段の威勢のよさは無くなり、タックはやっと声を絞り出した。
フクンはタックの胸に顔をうずめている。
「魔物怖いか?」
「…うん。」
タックが小さく頷く。
作業を終えた2人がレイたちに近づき、そばに腰を下ろした。
「仕方ないねえ。まだ子供だし。」
アアナが微笑みながら言った。
トムも何か言おうとしたが、気の利いたことが言えるか自信が無く、黙っていることにした。
「この子たちはお爺さんが亡くなった直後にハイオークに襲われて。」
タックの頭を撫でながらレイは言った。
アアナは2匹を優しく見つめながら、
「そりゃ怖いさね。まだ朝だけど一旦村に戻ろうか。」
2匹をレイとトムがおんぶし、村に戻ることにした。




