3、魔族の心臓
1時間ほど歩いただろうか、レイたちは1軒の粗末な小屋にたどり着いた。
周りにはポツポツと似たような小屋が建っている。
「ここが俺の家だ。入ってくれ。」
ザムに促されてレイたちは中に入る。
家には1人の男がいた。
初老で白い髪を短く刈り込んでいる。
他の魔族と同じように青黒い肌で真っ赤な目をしているが、殺気などは感じられない。
がっしりした体格でどこか風格があり、無表情ではあるが力強さを感じる。
そして右足の膝から下が無く、太ももに木をくくりつけて体を支えているようだ。
「紹介する。俺の父だ。親父、勇者を連れて来たぞ。」
ザムの父親はテーブルを支えにして立ち上がり、レイに手を差し伸べてきた。
「初めまして。ザムの父、アトラントです。」
レイたちはそれぞれ握手をしながら自己紹介をする。
「4人も勇者がいるとは、ありがたい。まずは地下に案内したいがよろしいか。」
一瞬レイは迷ったが、ジャミと顔を見合わせた後頷いた。
「では、こちらへ。」
アトラントの案内でレイたちは部屋の奥から地下へと下りていく。
地下には3人の魔族の死体があった。
「これは。」
「先日、帝国軍に襲われた際亡くなった者たちです。」
レイたちが死体の前に立つと、アトラントは懐から短剣を取り出し、1人の死体を開き始めた。
「今から言うことは、これを見ていただいたら分かるでしょう。」
アトラントは死体に短剣を突き立てながら話し続ける。
「何故魔族はいるのか。何故魔族はシュミム王国の人々を襲ったのか。」
アトラントは死体の胸の肉を抉り出し、ろっ骨を叩いて割り始める。
「ただ魔族と人間の争い、対立という話ではありません。」
ろっ骨を力任せに死体から引き剥がした。
「このような物を見せて申し訳ない。」
アトラントは肋骨の内側にある肉を慎重にそぎ落としていく。
「口で説明しても信じてもらえないでしょう。だからお見せするしかない。」
アトラントが指さす先に、むき出しの心臓が見える。
ショウダイたちは思わず目を逸らしたが、レイはそこあるものに釘付けになった。
心臓の下の部分に魔石が縫い付けられていた。
魔物の魔石を取り出したことは幾度もあったが、魔物は心臓の一部が魔石に融合したようになっている。
だが、今レイの目の前にあるのは、心臓に魔石が縫い付けられた死体だ。
糸で縫いつけられているのがはっきりと見える。
魔物の物とは全く別物だ。
レイが戸惑いの目でアトラントを見た。
アトラントは静かに言った。
「魔族という種族はいないんです。元は全て人間でした。」




