2、効かない回復魔法
レイとザムがジャミの所に駆け付けると、涙目のジャミが女性の傷口を押さえていた。
傷口からは黒い血が流れていて、ジャミの手からは黒い煙が出ている。
「ジャミ、直ぐ手を放せ。お前の手が無くなる。」
ザムが力づくでジャミを引き離す。
「全然血が止まらないんだ。ポーション効かないし。レイ、回復魔法。早く。」
レイは魔法袋から魔力ポーションを取り出し、一気に飲む。
魔力が3分の1ほど回復したことを確認すると、女性の傷口に向けて回復魔法を放った。
「えっ。」
回復魔法が全く効いていない。
黒い血は止まることなく流れ出ている。
「ちょっと代わって。私、まだ魔力あるから。」
ユウナがレイを押しのけて女性に近づいた。
ありったけの魔力でユウナは女性に回復魔法をかける。
「うそ。血が止まらない。」
ユウナの回復魔法も全く効いていない。
ユウナは魔力を使い果たしたのか、その場に座り込んでしまった。
女性は虚ろな目で空を見つめている。
ザムは無言で女性に近づくと剣を引き抜き、何かを呟いた。
そして一気に女性の首に剣を突き立てると、力を込める。
体から頭が切り落とされ、女性は絶命した。
「ザム。何を。助かったかもしれないのに。」
ジャミがただれた手でザムに掴みかかる。
「ジャミ、すまない。こうするしかないんだ、今は。」
「こうするしかないって。何で。何で。」
ジャミの目から大粒の涙が零れ落ちた。
レイは静かにジャミに近づくと、ジャミの手に回復魔法をかけた。
ただれたジャミの手が綺麗に元通りになっていく。
「説明してくれるんだよな。今のこと。」
レイはザムを睨みつけた。
「当たり前だ。俺の家に案内する。来てくれ。」
ザムを先頭に、レイたちは歩いていく。
辺りにはケガ人が複数いるのだが、回復魔法やポーションが効かないのではレイたちにはどうすることも出来ない。
横目で見ると、傷口を押さえてそのまま縫うようだ。
辺りから痛みに耐えかねた悲鳴が聞こえてくる。
「あっ。ああ。」
1人の腹を怪我した男がザムに近づいてきた。
「帰って来たんですね。ザム。ああ。まだ希望はある。」
男はそれだけ言うとその場に倒れこんだ。
何人かの魔族が駆け寄り、男の傷口を急いで縫っている。
「何で。なんで回復魔法効かないの?」
ユウナの目には涙がたまっている。
「おかしい。」
レイは呟いた。
以前ドイン領で3人の魔族と戦った時、ヒールを使われ苦戦したときがあった。
一番強い魔族がレイとトムが戦っていた魔族に使ったのだ。
あの時はヒールが効いていた。
だが、ここにいる魔族たちにはヒールが効かず、傷口を直接縫うことで何とか血を止めている。
レイたちは無言のザムを先頭に、魔族領の奥へと進んでいった。




