30、説得
「ホッホッホッ。最初からこうすれば良かったですね。」
「そうだよお。早くやってくれよお。」
ライバの言葉にジャミが呆れている。
ライバの風魔法により、レイたちは潮の流れの影響を受けることなく魔族領の海岸へと到着した。
「まさかこんなに早く着くとはな。」
ザムが久しぶりの魔族領を懐かしそうに見回している。
魔族領の海岸線は何人も拒むかのように切り立った岩山が連なっていた。
1か所だけ切り込みが入ったような場所を見つけ、そこに船をつける。
「俺もここから入るのは初めてなんだが。村はこっちの方角だ。行くぞ。」
ザムを先頭にして谷間の細い道を走っていく。
ザムは焦っているようで最初は歩いていたのだが、次第に早くなり最後には駆けだしてしまった。
「ちょ、早い。」
アサミが文句を言うが、ザムは一切聞いていない。
レイは後ろからアサミたちにバフをかけながら最後尾を駆けていく。
魔族領は空気が淀んでいて、先を見ようとしても黒い空気で見えない。
霧かと思ってザムに尋ねると、いつもこんな空気だそうだ。
心なしか息苦しく感じる。
一応木などの植物も生えているが黒ずんでいて、時折魔物の鳴き声が聞こえてくる。
漁師たちの町を出港してから人魚たちの住む岩場、そして魔族領と1日で移動したことになる。
朝飯を食べてから一切食べ物を口にしておらず休んでもいない。
疲労が全身を重くする。
「ザム、暗くなってきた。もうそろそろ休まないか。」
後ろからレイが声をかけた。
「あと3時間ほどで着くはずなんだ。」
地図は無いため感覚だけでザムは答えている。
「そんなこと言ったってもう疲れた~。夜になってもずっと走ってるじゃん。」
ふてくされたジャミが座り込む。
「ザム、急ぐ気持ちは分かるがもう皆疲れてる。今日はもう休もう。」
「だが。」
「3時間じゃ着かないよ。」
レイの説得にジャミも加勢する。
「いや、3時間…。」
「5時間はかかるよ。斥候の俺が言うんだ、聞け。」
ジャミにしては珍しく口調が荒い。
「夜の移動は危険だ。ジャミ、近くに野宿出来る所はあるか?」
「この先ちょっと行ったところに開けてる場所がある。」
「そこまで移動して休もう。ザム、いいな?」
「仕方ないな。」
レイとジャミに説得されてザムが渋々同意する。
空き地にレイの土魔法で建物を作り一夜を過ごした後、朝日が昇る前、空が明るくなると同時に出発する。
4時間ほど走っただろうか、
「見えてきた!もうすぐだ!」
ザムの明るい声に自然と足が速くなる。
細い道の先が明るくなっており、ザムの故郷にたどり着いたようだ。
だが様子がおかしい。
怒号が聞こえ、剣がぶつかり合う音が聞こえる。
レイたちが全力で走り光の先に飛び込むと、魔族と思しき青黒い肌の人々が黒い鎧の集団に襲われていた。




