29、切断された死体
「ゔっ。」
一目見るなりショウダイたちは鼻と口を抑えて目を逸らした。
レイとザムも鼻と口を抑えたが、切断死体を凝視している。
血は出ていないが切断面が生々しい。
時間が経っているのか青黒い色をしている。
「レイ、魔族の死体だ。」
「え?」
レイの考えていることが分かるかのようにザムが呟いた。
時間が経って青黒くなっているのかと思っていたが、近づいてよく見ると確かに魔族の皮膚の色とよく似ている。
「頭と胴が無いな。」
ザムは念入りに死体を調べている。
レイも入り江に浮かんでいる死体を見ると、ザムの言う通り頭や胴が無い。
切断された手や足が浮かんでいる。
「何これえ。」
「早く行こ。無理。」
アサミとユウナは一刻も早くここから逃げたいようだ。
ジャミも顔が青ざめていて死体を見ないようにしている。
「レイ、収納の魔法袋あるか。」
「はい。」
レイは収納の魔法袋をザムに渡した。
ザムは黙々と切断死体を魔法袋の中に入れていく。
レイはさすがに手伝う気になれず、人魚に話しかけた。
「大陸から流れてくるんですか。」
「そうっちゃ。海、汚くなるっちゃ。」
「ですね。ここに流れ着いた死体は回収します。」
「やってくれい。」
「でこんなことしてる奴の情報無いですか?」
「詳しくは分からないっちゃね。あっちの方から流れてくんよ。」
人魚はラガッシュ帝国の方を指さす。
「あっちからですか。前から流れてきてたんですか。」
「月2周りくらいっちゃか。そん頃からね。」
「月2周り?」
「2か月前ってことじゃない?」
側で聞いていたジャミが通訳する。
「2か月前、帝国で何があったんだ。」
「てか、帝国と魔族の繋がりって何だろね。」
「帝国も襲われてんじゃないのか?」
「それはあるかもしれないけと多くない?」
ジャミが指摘する通り、シュミム王国でドインが戦っていた時は大体1人、多くて3人だった。
だが、ここに浮かんでいる死体は30体以上あるだろう。
帝国は2か月で30人以上の魔族と戦ったのかと思う。
「終わったぞ。」
振り返るとザムが魔法袋を手に立っていた。
側でショウダイがえずいている。
「早かったな。」
「ショウダイが手伝ってくれたからな。」
「そうか。ショウダイありがとう。」
ショウダイは話せないらしく、右手を上げてレイの言葉に応えた。
そして猛烈な勢いで手を洗っている。
「戻って報告するか。」
「早く魔族領に行きたいんだが。」
ザムは渋い顔だ。
「そう言っても。船返さなきゃだし。」
「大丈夫っちゃ。ワシからあっこの漁師に言っとくっちゃ。」
「そうですか。お願いします。」
「気を付けるっちゃ。魔族領あたりは潮の流れ早いからね。船壊れるっちゃ。」
「ありがとうございます。行ってきます。」
漁師たちへの連絡は人魚に任せることにする。
レイたちは船を借りっぱなしになるが、ザムに従って魔族領を目指す。
切断された死体を見て、ザムは何か焦っているようだ。
レイは気分が悪くなったショウダイと交代し、魔族領に向けて船をこぎ出した。




