28、人魚
「あんちゃんたち、ほんとに行くのかい?」
「はい。船ありがとうございます。」
「良いってことよ。古くて悪いね。汚れても壊れても気にしねえでくれ。」
「はい。」
「別に倒してくれんでええ。奴らが大人しくなりゃ、うちらも海出れるでね。」
「分かりました。行ってきます。」
「おう。気いつけてな。」
町長に見送られながら、レイたちは町長から借りた船を漕いでいく。
波が穏やかで漕ぎやすい。
勇者3人とザムが黙々とパドルを動かしている。
レイは一番後ろで舵を動かし、ジャミは一番前で警戒していた。
「しっかし、どんな魔物でしょうなあ。」
フワフワ浮かびながらライバが辺りを見回している。
「魔物じゃないだろ。」
レイがしっかり訂正する。
「ちょっとあんたも漕ぎなさいよ。」
アサミはライバが何もしないことに不満なようだ。
「私力仕事に向いてないんです。」
ライバは申し訳なさそうに肩をすくめている。
30分ほど進み前方を見ると、大きな岩場があるのが見える。
島かと思うほど大きいのだが木が1本も生えていない。
町長が言うには、この岩場が住処になっているそうだ。
レイが声を張り上げる。
「すいませーん。誰かいますかー?お話したいですー。」
岩場の陰から人魚と思しき頭が少し見えた。
ポツポツ岩場から1人、また1人と頭を少し出している。
4~5人いるようだ。
レイが凝視していると、頭が少し揺れていた。
何やら小声で話し合っているようで、コソコソ聞こえてくる。
しばらく待っていると槍を持った人魚が飛び出してきた。
「あれが人魚かよお。」
ショウダイが明らかにガッカリしている。
映画に出てくる美しい姿を想像していたようだが、目の前にはゴブリンの上半身に魚の下半身が引っ付いた姿の人魚がいた。
「なんちゃね。」
話すことは出来るようだが、かなり特徴的な口調をしている。
「すいません、突然。あなたたちが人を襲うようになったと聞いてどうしてかなって様子を見に来ました。」
「そうっちゃか。」
人魚はレイたちをジロジロ見ている。
レイたちは両手を上げて戦う意思が無いことを示ししばらく待っていると、人魚が声をかけてきた。
「岩に沿って右に進んでちょ。底にある岩に気い付けよ。」
レイたちはゆっくりと漕いで岩場の右手に進んでいく。
「こっちこ。これじゃ。」
岩場の右側、つまり西側には特徴的な入り江があった。
入り江の入口は大陸の方を向いていて、大陸から打ち寄せる波が絶えず入り江の中に入り込んでいる。
「これ見っちゃね。」
怒りに震える人魚の指さす先には、切断された人間の死体が入り江の奥に大量に浮かんでいた。




