27、海
「うみーーーー。」
「うみだあー。」
「うわあ!なつかしーい!うち家の真ん前に海あったの。」
ショウダイたちも目を輝かせている。
召喚されてから今まで、沼や川を見たことはあるが海は無かった。
目の前に白い砂浜が広がり、青い海から波が押し寄せている。
「魚!サンマ!マグロ!アジ!」
「貝食べたい。アワビカキハマグリ!」
「刺身あるん?あるよね。」
「俺はカツオ食べたい。」
地球から召喚された4人が口々に食べたいと連呼する。
若干引き気味のザムがレイたちに言った。
「まあ、お目当ての食べ物があるか分からんな。夜になるし町に入って宿取ろう。」
『はいっ。』
レイたちが元気に返事をする。
衛兵に金を渡し、こじんまりとした町に入る。
衛兵の話では宿は1件だけらしい。
案内された宿にはいり、部屋を人数分取る。
「それでは従魔は小屋に入れてください。」
「私、小屋で寝るんですかあ。」
若干キレ気味にライバが言う。
「俺と同じ部屋じゃダメですか?」
「決まりですんで。」
宿屋の主人に断られ、ライバはうなだれている。
「モフモフいないし私ベッドで寝れないし。」
「すいません、ライバさん。後で小屋にベッドと囲いとか作りますんで。」
レイたちはライバをなだめながら、これまた町に1件しかない酒場兼食堂へと向かった。
食堂の扉を開けると、海産物を焼く良い匂いが漂ってくる。
「っぱ、この匂いだよなあ。」
「お腹空いたな。早く食べようか。」
いそいそと椅子に座り、注文する。
皆余程お腹が空いたのか、目に付いたものを片っ端から頼み、テーブルの上にのり切れないほどの食事が運ばれてきた。
「美味しそう。」
アサミが目を輝かせている。
レイが頼んだのは、小さい白身魚を丸ごとトマトスープで煮込み、ハーブで香りづけした料理だ。
塩が豊富に取れるからか味付けは若干濃いが魚臭さはなく、飲むようにしてがっつく。
「美味しい。」
「やっぱ川魚と違うな。塩気と合うわ。」
全員で嬉しそうに食べる中、召喚前は海の目の前に住んでいたユウナが疑問を口にする。
「どの魚も小っちゃいね。この世界じゃもっと大きいのが捕れると思ったのに。」
「そう言われりゃ、そうだな。」
確かにレイの食べている料理も、他の料理も魚自体が小さい。
この世界では魚も魔物の類だ。
ドラゴン並みの大きな魔物もいるかもしれないが、今目の前にはししゃもくらいの大きさしかない魚の料理が並んでいる。
パンと料理をお腹いっぱい食べた後、デザートを運んできた男に魚のことを聞いた。
男は申し訳なさそうに答える。
「すんません。最近魔物のせいで小っちゃい魚しか捕れんくて。国境の町で冒険者ギルドに依頼出しとるんですが、来んくて。」
レイはBランクの冒険証を取り出し男に見せる。
「俺はBランクだ。その魔物のことを詳しく聞かせてくれ。」
「ありがてえ。倒してくれるんで、奴らいっぱいいますんですが。」
「まあ、詳しく話を聞いてからだな。」
「へえ。2か月ほど前っすか。突然魔物が暴れ出しましてね。船が漁場に近づけやしないんです。」
「それまでは大人しかったのか。」
「へえ。襲ってきたりは無かったんだす。住処にむやみに近づいたり、攻撃したり、ゴミ捨てたりしなけりゃ大人しい良い奴らですよ。」
「そうか。魔物にしては珍しいな。」
「そっす。片言ですが言葉喋るんだす。挨拶すれば返事してくれますよ。」
レイとザムは顔を見合わせた。
魔物というよりは、ポポルック族に近い感じがする。
「どんな見た目なんですかね。」
「頭とか上は人間で、下は魚っすね。」
「人魚だ!」
ショウダイが興奮している。
どうやらこの世界には人魚がいるようだ。
「別の漁場にしたらどうなんだ?」
「ダメなんす。良い漁場なんす。ラガッシュ帝国沖の漁場で人魚たちの住処の横通っていくしかなくって。他は潮の流れが早くて危ないんすよ。」
「そうか。」
レイは再びザムと顔を見合わせる。
どうやら人魚を大人しくさせないと、魔族領には行けないようだ。
レイはその人魚に対処すると男に伝え、明日船を借りたいと申し出た。
「へえ。ありがてえ。町長に直ぐ言ってくんべ。」
男は給仕を止めて外へと飛び出していった。




