17、メシュ大陸小国群
「色々お世話になりました。」
「いえいえ。皆さんもお気をつけて。」
レイたちはポッタに挨拶し、大陸南東部の小国群へと向かう。
別れの際、レイはポッタに通信と収納の魔法袋を2つずつ渡した。
何かあったときには使ってほしいと伝える。
禁足地にいたキングリッチを倒したことによって、ゴブリンやオークなどの魔物が襲ってくる可能性がある。
ポポルック族のことも話そうとしたがザムに止められ、禁足地には別の種族が住んでいるが敵対的では無いということだけを伝えるにとどめた。
転移の魔法陣を置こうかとも思ったが、「他に必要になる時があるかもですよ。」とポッタに丁寧に断られた。
「ゔ~。」
二日酔いらしいザムが唸りながら歩いている。
相当気分が悪いようだ。
「回復魔法かけるか?」
「いや、いい。迷惑かけたようだからな。まあ、バツだと思ってくれればいい。」
昨日のことをザムは反省しているようだ。
寝起き一番に「もう二度と酒は飲まない。」と謝ってきたほどだ。
ショウダイたちはそんなレイとザムのやり取りを横目に静かに歩いていた。
「どったの?いつもと違って静かじゃん。」
ジャミが気を利かせて声をかける。
「…いや、昨日ザムさんから言われた通りだと思って。」
ショウダイは頬を掻きながら気まずそうに答える。
「あたしたち、ちょっと調子乗ってたっていうか。」
「ダンジョンでしか戦ったこと無かったから、外だったらってね。」
「レイさんたちみたいに魔族と戦うってこともしてないし。籠城戦とかもしたことないし。」
そんな3人の姿を見て、レイが元気に励ました。
「俺だってザムから剣術ダメ出しされたし。ザムに剣術とか戦い方習っていこうか。」
『はい。』
素直に3人が頷く。
レイは振り返り、後ろを歩いていたザムに声をかけた。
「ということで、毎日夕方に俺たちに教えてほしい。」
「ゔ。分がった。」
相変わらず気分悪そうなザムが返事をする。
それでもショウダイたちは元気が無い。
「どうした。」
「地球って滅びたって。」
「…言ってたな。」
キングリッチはレイたちが幸せだと言っていた。
レイたちが死んだ後、地球は神の怒りに触れて滅んだらしい。
どのような最期だったのか、分からない。
「パパ、ママ…。」
ユウナが泣きそうになっている。
自分たちが死んだ後も、せめて残された家族が幸せだったらと思う。
だがその家族も既に生きてはいないらしい。
レイ自身、キングリッチのその言葉を思い出さないようにしていた。
ショウダイたちにかける言葉も見つからず、全員下を向いたまま歩いている。
「なあ、キングリッチの言葉なんて信じるなよ。あいつ魔物だぞ。デタラメ言って俺たち騙して解放させようとしてたかもしんないだろ。」
ジャミが回りながらレイたちを励ます。
「ぞうだぞ。あいつは…クズだ。」
ザムも言葉を絞り出すように慰めた。
「そうだな。行こうか。」
心のどこかが沈んだまま、レイたちは前を向いて歩き続けた。
細長い形をしているトホス王国から3日ほど歩くと、小さな町が見えてきた。
ここが小国群入り口の町である。
メシュ大陸南東部から南部にかけては小国がひしめき合っており、滅んでは新しい国が出来るを繰り返している。
ダンジョンが多く、幾多の冒険者が目指す場所だ。
「言っとくがここは通り過ぎるだけだからな。ここから帝国を経由して魔族領に入る。」
ザムの説明では、ここには用事が無いらしい。
レイたちは頷いて、町の中に入った。




