16、違和感
レイたちが個室に入り話し合いをしていると、遠慮がちに扉をノックするのが聞こえた。
ジャミが扉を開くと、ポッタの息子ムカウが立っている。
「ムカウさん、どうしました。」
「あの。もうそろそろご飯食べませんか。」
「ああ。」
「忘れてたな。」
レイたちは立ち上がり、食堂として使われている大部屋へと向かう。
「おっ、来ましたか。お酒ありがとうございます。」
ポッタが丁寧にお礼をする。
「いえ。泊まらせていただいたお礼です。食事もありがとうございます。」
「食べ物も頂きましたからね。お口に合うかどうか。」
大部屋にはテーブルも椅子も無いため、皆で車座になって食べ始めた。
レイは禁足地の強い魔物を倒したため、今後はゴブリンなどの魔物が来るかもしれないことを話した。
ポッタは難しい顔をしながら考えている。
「20年ほど魔物は来なかったらしいんです。もう戦いの仕方なんて忘れてますし。家もボロボロですしね。」
「すまない。そこまで考えておらずに倒してしまった。」
「いえいえ。助かりましたよ。そんな他の魔物逃げ出すほどの奴を倒してくれたんですから。そんなのに襲われたら、この国はひとたまりもないですからね。」
「今、俺の奴隷たちがタリカ領の修復してるんだ。手が空いたらこっちに来て城作るように言っても良いか。」
「ありがたいです。でも城はねえ。うちの王様が嫌がりますんで。」
「じゃあ、キッコーリ村みたいな感じはどうだ。」
「良いですね。頑丈でって。大丈夫ですか、畑もあるから大きくなっちゃいますよ。」
「時間は多少かかるだろうが、大丈夫だと思う。」
「じゃあ、お願いします。」
「分かった。すぐトムに連絡しとく。」
もうすぐタリカ領の修復も終わるはずだ。
終わり次第トホス王国の防壁を作ってもらうことにする。
ゆっくりと酒を飲みながら、レイはポッタと話し込む。
気分よく酔っていたレイは、突然ザムに掴まれた。
「どうした、ザム?って酔ってる?」
珍しくザムが酔っている。
というよりも、ザムが酒を飲んでいる姿を今まで見たことが無い。
レイたちがお酒を飲む場面でも、ザムだけは静かに食べているか水を飲んでいた。
「レイ!」
「はい。」
「剣術がなっとらん!マオハリを倒した奴はさぞかしと思ってたが、あんなもんか!」
「はっはい。」
レイはザムの気迫に押されて素直に返事をする。
「そしてお前ら!」
「っえ。私ら?」
レイたちの近くで酒を飲んでいたショウダイたちにザムは掴みかかる。
ユウナがビックリしている。
「お前らは!うるさい!頼りない!警戒してるとき騒ぐな。死ぬぞ。」
「はっ、はい。」
言われたことに心当たりがあるのかショウダイたちは元気が無くなっている。
「剣を抜けえ!鍛えなおしたる!」
「いやああああ。」
ザムは抜刀し、ショウダイたちに切りかかった。
「危ない!」
レイは止めに入るが、
「大丈夫。剣すり替えといたから。切れないよ。」
隣でのんびり飲んでいたジャミが呟いている。
よく見ると、ザムの剣は木刀にすり替えられていた。
「まっ、あの3人もダンジョン以外の戦い方覚えなきゃね。」
ジャミは止める気が無いようだ。
「ん?」
「どしたの?レイ。」
「何か違和感が。何だ。」
「何、ザムで。」
「そう。何だろ。」
「やっぱり信用できない奴だな。」
「そういうことではなくて。何だ。」
「いいじゃん。考えて分かんなかったら飲もうぜ。」
レイはその違和感が何なのか分からなかったが、ジャミに勧められて再び酒を飲み始めた。




