14、奇跡の男
「良かった。戻って来たんですね。」
ホッとした様子のマイロがレイたちを出迎えてくれた。
ショウダイたちは巨木の中に入ると、床に座り込んで気の抜けた声を出す。
「疲れたあ。」
「何あれ。」
「怖かった…。」
一方レイは座らず、ザムの前に立ちはだかった。
だがザムはレイに応えることは無く、言葉少ない。
「トホス王国に戻ってからで良いか。今日は疲れた。」
レイはザムを睨みつける。
「必ず話してもらうからな。」
ここでは話さない方が良い。
それはレイも同じ意見だった。
今日はゆっくり寝て、明日戻ったら話してもらう。
レイは眠ろうとしたが、心がざわついて眠れなかった。
地球滅亡のこと、魔族のこと、自分が女だと見抜かれたこと、神の理…。
タックたちの寝息を聞きながら一睡もしなかったレイは早朝トホス王国へと出発する。
マイロたちへの挨拶もそこそこに、全員押し黙ったまま走るように禁足地を抜けた。
「お帰りなさい。無事でホッとしましたよ。」
安堵の表情を浮かべたポッタに出迎えられた。
いつもならばここで笑顔の一つでも見せるのだが、今のレイにそんな余裕はない。
「ポッタ、俺たちだけで話が出来る部屋があるか?」
レイの問いにポッタは少し戸惑う。
「んっあっ、用意するんでちょっとお待ちください。」
しばらくしてポッタに案内された部屋にレイたちは入り、扉をそっと閉めた。
「ここならいいだろ。話してもらおうか。」
絶対に話してもらうというレイの気迫に諦めたのか、ザムが口を開く。
「どこから話すか。」
「キングリッチが魔族を作ったとは、どういうことだ。」
ザムは迷いながらも話を始める。
「言った通りだ。あのリッチは元は人間で、魔族を作り出した。」
「何故お前が知ってる。」
「あのリッチは親父の敵だった。アイツのせいで親父は殺された。」
「あれがお前の復讐相手か。」
「違う。」
ザムは首を横に振る。
「アイツを殺さなければ魔族が作られ続ける。」
「どういうことだ。」
「磔されてるの見ただろ。動けないアイツの魔力から魔族は作り出され続けたんだ。」
「お前もか。」
「いや。俺は違う。だから俺は『奇跡の男』なんだ。」
「どういうことだ。」
「魔族から魔族は生まれない。だが俺は。俺は魔族から生まれた。」
「…。」
「魔族の父親と、魔族の母親から俺は生まれた。」
「あり得ないことが起こったのか。」
「そうだ。」
「あのリッチから魔族が生まれてると言ったが、魔族領とここは離れてないか。」
「あの遺跡のどこかに転移の魔法陣があるんだろう。」
「探せば良かったか。」
「いや、危険すぎる。すぐ帰って良かったんだ。」
ザムはこれ以上のことは魔族領に着いてから話すと言って、口をつぐんでしまった。




