3.この世界のこと
レイはうなだれて半泣きになりそうなトムを見ていた。赤毛で茶色い目をしていて、素朴な顔をしている。
両脇に豪奢な建物が立ち並び、人々が賑やかに通り過ぎていく中、2人は静かに城の反対方向へと歩いていた。
「トムさん。ちょっと教えてもらいたいです。」
突然レイは声をかけた。
「はい?何を?」
「20万ゴールドは、どのくらいの価値か教えてもらえませんか。」
「1人1か月の生活費が5万Gくらいです。屋台の食い物が100G、風呂も100G、飯屋で300G、飯付きの宿屋が1泊2000Gって感じですね。」
飯関係が多いなと思いながら、さらにいろいろ聞いていく。
1週間6日、1か月は30日であること。
商人ギルド・冒険者ギルドがあること。
それぞれのギルドに所属すると特典があることやランクがあること。
生まれながらの職業によってスキルが与えられること。
レベルがあり成長すると使えるスキルが増えるかもしれないこと。
話しながらトムがレイを見ると、キラキラとした目でレイが見上げている。
不思議に思ったがレイが召喚されたことを思い出し、魔法もレベルも無い世界から召喚されたのかと考えていた。
話しながらトムの悲しみがやや薄らいだ頃、レイが立ち止まって言った。
「そろそろ日が暮れそうですね。どこか安くて落ち着いて過ごせる宿をご存じですか。」
「大通りの裏手にあるトモリーツ亭が良いですね。飯が旨くて大盛です。」
「じゃ、行きましょうか。」
少しずれた会話をしながら2人は大通りの裏手に回った。
大通り裏手の少し奥まった場所にあるトモリーツ亭は、1組の夫婦が切り盛りしている飯屋兼宿屋である。
1人1泊2000Gだが、1週間連泊すると1万Gに割り引いてくれるというので1週間予約をして部屋に入り、レイはさらに話を聞いていく。
この国はメシュ大陸の北西部に位置し、大陸の中央にはギルガ教会の本部があるギルガ神聖国があること。
シュミム王国の南にはラガッシュ帝国があり、どのような国かは分からないこと。
北側は険しい山々があり、その向こう側は何があるか分からないこと。
王国の東にはアッカディー王国があり、その王は賢王と呼ばれていること。
反対の西側は魔族領であること。
「魔族領?」
レイが眉をひそめながら聞き返す。
「そうです。魔族が住んでいます。」
「魔族とはやはり敵対しているんですか。」
「そうです。そのために、禁忌である勇者召喚をしたんです。」
禁忌と言いながら、勇者召喚をしても余程のことがない限り教会からお叱りを受けても罰則はないが、支払う犠牲が大きいためどの国も禁止しているという。
魔族は何度か魔物を引き連れて王国を襲っており、そのため王国には多大な被害が出ているそうだ。
「魔物もいるんですか。」
レイからの質問にトムは驚きながら、
「そうです。召喚される前の世界にはいなかったんですか。」
「いませんよ。魔物も魔法もスキルもレベルも無いです。」
それ以上のことは言いたくないというレイの雰囲気を感じながら、トムは話を続けた。
「魔石を有する魔の生物の総称を魔物といいます。毛が生えた四足歩行の物を魔獣、二足歩行で特有の言語を話す物を魔人、魔人の中でも特に知力が高く人語を理解するものを魔族といいます。倒しにくさによって強さのランクが決まっています。」
レイは袋の中に入っていた紙とペンを取り出し、トムの説明を書き写していった。
「魔法については、世界を生み出す6つの元素から生み出されています。火・水・風・土・光です。闇魔法もありますが、魔物しか使えません。また、火は水に弱い、風は火に弱いといった相性があります。」
「武器には剣・槍・弓・杖・斧・鞭とかがあります。武器や防具に付けるエンチャントもありますが高いですね。ステータスを上げたり闇魔法を防ぐアクセサリもありますが、こちらも高いです。」
トムの話を時々図にしながら、レイは様々なことを書いていく。
トムの喉が渇きお腹がすき、もうそろそろやめましょうと話しかける寸前、レイは書き写していた紙から顔を上げ、ご飯を食べませんかと言った。
2人は宿屋の1階に下りていき、山盛りのパンと肉とブドウ酒を腹に納めていった。