8、解剖
「うわあ。」
「引くう。」
ショウダイとアサミとユウナがドン引きしている。
レイも顔が引きつったが、マイロにどうしてと理由を尋ねた。
「あの。前から疑問でしてね。魔物に魔石があるんだったら人にもあるんじゃないかって。」
「そうですか。」
「で死体切って心の臓を見たんですよ。何体も。」
「うへえ。」
ジャミもドン引いている。
この世界では手術や解剖は無い。
ケガや病気は回復魔法かポーションで治すのが一般的だ。
死体も人間でも魔物でもアンデッド化しないように直ぐに火葬する。
死体を切り刻んだマイロのことを、ジャミは何故そんなことをしたのかと理解不能だったのだろう。
一方日本で育ったレイはマイロが解剖していたのかと納得した。
最初の言葉に引いていた3人の勇者も事情が分かったようだ。
「で、あったんですか。」
「無かったですよ。全く。」
「でバレて逃げたと。」
「ええ、ラガッシュ帝国って知ってますか。」
国の名前が出たとたん、ジャミがピクッとする。
「名前だけは。」
「あそこにいたんですよ。で逃げてきて彼らに出会いました。」
「じゃあ、もうやってないと。」
「いえ、研究自体は続けてますよ。」
「え?」
「見ます?」
「見たい。」
今まで黙っていたザムが返事をした。
結局全員でマイロの研究室に行くことにする。
マイロの研究室は住居となっている大木から少し離れた洞窟の中にあった。
「臭いにゃあ。」
「ゴッグフ。」
「グオッフォ。」
3匹はあまりの臭いに悶絶している。
「うっ。」
人間にもキツい臭いだ。
本能が刺激されるような不快な臭い。
これが死臭というものだろう。
嫌な甘さのある臭いである。
「ジャミ、3匹連れて戻ってくれ。俺たちだけでいい。」
「あんがと。戻る。」
口と鼻を覆ったジャミが3匹と一緒に急いで大木の中に戻る。
レイたちが洞窟の奥に進むと手術台のような所があり、その上に人間とポポルック族の遺体があった。
「うっ。」
強烈な刺激臭が鼻をつく。
「見てください、これ。」
マイロは手招きして人間とポポルック族の胸の部分を開いた。
ショウダイたち3人はギブアップしたようだ。
離れた所で固まったまま近づこうとしない。
レイとザムは鼻と口を覆い、遺体を覗き込んだ。
「こっちの人間、魔石無いでしょう。こっちのポポルック族は昨日亡くなったんですがね、ほらここ見てください。」
レイたちは言われるがままポポルック族の遺体を覗き込む。
「心の臓の下に小さな魔石あるの見えます?」
「あるな。」
「ああ。」
確かにポポルック族の遺体には小さい魔石があった。
マイロはナイフの先で指し示している。
「この人間の遺体は?」
「ここから遺跡側に少し行ったところで昨日見つけたんですよ。遺跡にいる魔物を倒せば大金が得られるっていう噂がありましてね。止めても行こうとする冒険者が後を絶たないんです。」
嘆かわしいといった表情でマイロが首を振る。
「ちょっと死体を保存するんで。運ぶのを手伝ってくれると助かります。」
「ええ!」
離れた場所で話を聞いていたアサミが悲鳴を上げる。
「アンデッド化しますよ。」
レイは忠告したが、
「大丈夫です。手足と頭、切り離しちゃえばなりません。」
「うっ。」
思わず絶句する。
「じゃ、先戻っといて下さい。僕1人でやるんで。」
マイロはレイたちに背を向けると、せっせと遺体を洞窟の奥まで運んでいく。
仕方なくレイとザムはショウダイたち3人と一緒に大木まで戻った。




