18、旅立ち
3日間みっちり準備をしたレイは、ザムや3人の勇者と共に馬車に乗り込もうとしていた。
「魔法袋あります?食料と薬と装備とあと、あと。あと通信袋。」
あわあわと慌てたトムが早口でレイに話しかけている。
心配性のトムが何人で旅に行くのかというくらい準備していた。
さらに今まで稼いだ金もタップリと魔法袋の中に入っている。
「大丈夫だ。全部持ってるさ。」
レイが笑顔で答えた。
陽気なチルが馬車の手綱を握っている。
マッチョリザードホーズの引く馬車に乗って、隣領まで行くことになった。
そこからは乗合馬車や徒歩で移動する。
最初はディアクス山を越えていくのかとレイは思っていた。
ザムに聞いた所、彼は魔族戦後のドサクサに紛れてディアクス山を越えて来たそうだ。
ところがディアクス山の向こう側はすぐ魔族領があるわけではなく、ドラゴンとオーガの巣があるらしい。
「お前らが襲われて魔族領にたどり着く前に、体力切れと魔力切れで死ぬぞ。」
ザムに言われ、大陸を回り込んで魔族領へと向かうことになった。
「じゃあ、アッカディー王国からギルガ神聖国抜けて。」
「ギルガには行かない。」
ザムが即答する。
「じゃあ、もっと大回りするの?小国群通って。」
一緒に行く勇者の1人、アサミが質問する。
「そうだ。ちょっと寄りたい所があってな。」
「寄りたい所?」
「『真実』の一つだ。」
ザムはそれだけ言うと黙ってしまった。
朝の町では忙しそうにレイの奴隷たちが働いている。
トムは盛大に見送ろうとしていたが、レイはその提案を断った。
ロックウッドやタリカたちも来たがっていたが、丁重に断った。
魔族や勇者3人の存在が知られたら騒ぎになる。
トムとハリナ、スミスの3人に見送られチルの扱う馬車に乗り込む。
「タック、フクン、アレス気を付けてね。」
「ハリナも元気な赤ちゃん産んでね。」
「はっはい。その節は奴隷という身分でありながら大変申し訳なく…。」
「いいから。いいから。」
ハリナが早口で謝罪の言葉を述べ始めたので制止する。
「レイさん、こまめに連絡くださいね。」
「レイ、あんま無理すんな。お前よく無理するから。」
「ああ、気を付ける。」
「ジャミ、お前はちゃんと仕事しろ。」
「わーってるよ。もう。」
「わふん。」
「にゃあ。」
「行ってくるにゃん。」
それぞれに別れを告げる中、トムが馬車の扉を閉めた。
レイが身を乗り出しながら、
「じゃあ、行ってぶっ!」
とんでもないスピードで馬車が走り出す。
スミスが見送りながら呆れたように言った。
「レイが旅立つ時って、いっつもしまらねえな。」




