17、妊娠
3日間、レイは精力的に動いていた。
タリカやロック、ライルたちに旅に出ることを伝え、タリカの求めに応じて砦と行き来できる魔法陣を作っていく。
念のためにとレイの家の地下にも1つ魔法陣を作った。
旅先からすぐに帰ってこられるようにするためだ。
旅に持っていくものを準備しながら、連れていく仲間を決めた。
ザムは誰でも良いと言ったが、レイと3人の勇者の他、タックとフクンとアレス、ジャミも連れていくことにした。
「俺かよお。」
相変わらずジャミが不満を漏らす。
「仕方ないだろ。前衛と魔法使える奴は足りてる。斥候が足りないんだ。」
「誰が奴隷で斥候の奴教育すんだよ。」
「もうお前が教育しなくても大丈夫だろ。他の斥候も育ってんだよ。主人の命令だろ。行け。」
隣で聞いていたスミスが小突いている。
「スミスすまん。」
「良いってことよ。でもマッチョたちには主人からよ~く言って聞かせてくれ。暴れたら魔族の比じゃない。」
「ああ。」
マッチョリザードホーズたちは、主人であるレイを乗せることに命を懸けている。
今回の旅にも連れて行こうとしたが、ザムから「目立ちたくない。」と拒否されたため連れて行かないことになった。
暴れたり無理やり付いてくるのを防ぐため、レイが説得する。
「グルアアアアアガア。」
「グアッゴオ。」
「ゴイゴイオオ。」
目に涙を溜めながらマッチョたちは訴えているが、旅から戻ったら思う存分遊ぶことを約束して納得してもらう。
もう1人納得してもらう相手がいた。
トムだ。
そもそも魔族領に行くことを反対しているトムを、時間をかけて説得することにする。
「そりゃ納得出来ませんよ。行くことも。自分を連れて行かないことも。」
「すまない。でもハリナを1人にしておけないだろ。」
「ハリナ?」
「お腹の赤ちゃんのこと考えるとな。父親が近くにいる方が良いだろ。」
トムの顔がみるみる赤くなった。
「何で分かったんすか。」
「そろそろお腹目立ってきてるぞ。」
「ふぐっ。」
「ダンジョン連れまわすのもそろそろ止めろよ。あと後のことよろしく。」
「もうっ。」
赤い顔のトムふくれっ面になる。
レイは思わず笑ってしまった。
赤くなった茹でジャガイモのようなトムは1つの疑問を口にした。
「多分ですけど、行くって決めたってことはザムは『白い』奴だったんすね。」
「そうだな。俺のスキルでそう見えた。」
「でも、行くって決めたのはそれだけですか。」
「ではないな。」
「あと、フクンがレイと『同じ』って。」
「あいつは俺と同じ『復讐者』だ。」
「えっ。」
今度は真顔になったトムに苦笑いしながらレイは話を続ける。
「スキルまでは分からなかったが。職業『復讐者』は俺一人だと思ってた。」
「大丈夫っすか、それ。人間たちへの復讐だったら。」
「『白い』奴で俺たちに殺意は無い。誰か復讐相手がいると思っていい。」
「誰っすかね、それ。」
「『この世の真実』が分かったら、そいつが分かるかもな。」
「真実って何ですかね。」
「話を聞いても信じてもらえない。この目で見ないといけないものか。」
レイは拳を握りしめた。
トムがその拳を見つめている。
「何か引っかかるんだ。何か。俺が今まで見たもの、経験したもので。喉につっかかってる感じがして。」
トムは無言で話を聞いている。
「行かなきゃいけないって思うんだ。何か大切なことを見逃している。だから行く。」
トムは黙ってレイを見た。
レイは力強く頷いた。




