15、魔族の抱える闇
「行くか!んなもん!」
レイが返事をする前に、トムが叫んだ。
レイはトムを制止しながらザムに話を続けるように言う。
「何で来てほしいんだ。」
「この世の真実を見てほしい。」
「真実?」
「そうだ。魔族とは何者か。魔族が人間を襲うのは何故か。魔族はどう生まれるのか。」
「今、ここで話したらどうだ。」
「それで信じるのか。」
「内容によっては難しいかも。」
「だろうな。自分の目で見て判断してほしい。」
「で、お前に付いて行くとして。」
レイはザムの目をジッと見つめる。
「俺らに何のメリットがある?」
「その間、魔族が襲って来ないようにする。約束しよう。」
「そうか。」
レイは考えていた。
確かにメリットではあるが。
「どう約束するんだ?俺がいない間にお前らの仲間が襲って来ない保証は?」
「これだ。」
ザムは腰に付けた袋から紙を2枚取り出した。
かつてローミと交わした契約書に似ている。
「契約書にサインしただけで約束が守られるというのか。」
レイは疑問を口にする。
確かに人間同士では契約書は有効かもしれない。
だが相手は魔族だ。
約束が守られるとは限らない。
そのレイの問いにザムは首を振って答えた。
「ただの契約書じゃない。魔法陣が描いてある。ここに互いの血を流す。」
確かに契約書には魔法陣が記されている。
レイは魔法陣を細かく確認して、その構成を頭の中で解析した。
契約の厳守を強固にするもののようで、約束が破られた場合は関わった者全員に死が訪れるようだ。
「さらに、それでも信用できない場合は俺を奴隷にしてくれても良い。」
「そこまでして俺を魔族領に連れて行きたいのか。」
「そうだ。このままでは魔族・人間両方に平和は訪れない。」
「聞いちゃいけません!レイ!」
たまらずトムが叫ぶ。
レイは長い間考えていた。
自分が離れていた間魔族が裏切って襲ってきたら、ひとたまりもないだろう。
ロックウッドのメンバーが元ドイン領の要塞にいるが、レイの奴隷ではない今、魔族と戦う力が備わるまでには時間がかかるだろう。
『勇者が魔族領に来ることに同意し、魔族領を目指して旅をしている間は、元シュミム王国及びアッカディー王国を魔族は襲わない。』
シンプルな契約内容だ。
レイが魔族領に行くと同意して行かなかった場合、または魔族が襲ってきた場合、約束を破った者に死が訪れる。
『勇者』ということは、レイだけではなくショウダイたちも連れていく必要がある。
彼らにはまだ魔族を倒す力は備わっていない。
さあどうするか。
長い間考えた末、レイはポツリと呟いた。
「分かった。行こう。」
レイは契約書に署名をして血判した。
そのうちの1通をザムは受け取り、丁寧に封をして腰に付けた袋にしまう。
こうすることで魔族領の仲間に契約が成立したことが分かるらしい。
レイと3人の勇者は、魔族領に向けて旅立つことになった。




