14、魔族ザム
ゴキンという鈍い音がした。
トムがハルバードを魔族目掛けて振り下ろしたのだ。
だが、魔族は片手剣でハルバードを受け止めている。
トムはレイよりも力が強く魔族を倒せるほどレベルも高いのだが、今は攻撃を片手で完全に防がれている。
男は右手に握った剣でトムの攻撃を受け止めつつ、ひじ掛けに頬杖をついた。
「バレないと思ったんだがな。」
レイもスキル『真実を見る目』が無ければ気が付かなかっただろう。
実際目の前の魔族には殺気が全くない。
そして今まで対峙した魔族と異なり、青黒い肌も赤い目もしていない。
透き通るような白い肌と、青黒い髪と目をしている。
「レイ!」
焦ったトムが叫んだ。
トムがレイを呼び捨てで呼ぶのは戦闘の時だけだ。
それほど今は緊迫した状況言える。
ハリナとショウダイたちも武器を抜き、隙をついて攻撃しようとしているが、魔族に気圧されているのか、トムが完全に防がれていることに恐れているのか躊躇しているようだ。
レイは剣に手をかけているが抜こうかどうか迷っていた。
そしてふと自分の側でくつろいでいるタックたちに声をかけた。
「タック、フクン、アレス。」
「にゃに。」
「レイ!」
「エル・キャットと…フェンリルか。それフェンリルか。珍しい。」
攻撃を加えているトム、珍しい魔物に興奮している魔族、それを冷静に眺めるレイ。
3者3様で状況はかなり混乱している。
レイはトムに加勢することなく3匹に尋ねた。
「このお兄ちゃんのこと、どう思う?」
「ん?」
「どうって?」
「悪い人?良い人?」
「ん。良い人。」
「ワン。」
「レイと同じ。」
「そうか。」
レイは剣から手を離すと、トムに話しかけた。
「トム、ハルバードを納めてくれ。」
「何を!」
トムは驚く。
魔族を目の前にしてレイには戦闘の意思が全く無かった。
「良いから。何かあったら俺が抑える。」
「凄い自信だな。」
魔族が苦笑いしている。
トムはしばらく迷っていたが自分1人では勝てないと判断したのか、ハルバードを引いて後ろに下がった。
いつでも戦闘出来るようにハルバードを構えたまま立つことにしたようだ。
レイは魔族の方に向き直った。
「で、俺に用事って何だ。」
「俺の名前はザム。魔族だ。」
突然自己紹介をした魔族は意外なことを言い出した。
「勇者にお願いがあって来た。魔族領に来てほしい。」




