12、古いコイン
タリカ大領の領都で屋敷の修繕が終わった後、旧ドイン領の要塞の修繕が始まった。
旧ドイン領の領主にはロックが就く予定だ。
Aランク冒険者から貴族の仲間入りをしたことになる。
「出世したな。」
「だな。まさか領主になるとは思わなかった。あの要塞だったらあんま実感ないかな。」
ロックは照れくさそうに頬をかいている。
ロックたちは今後要塞で暮らすことになる。
魔族からの襲撃に備えるためだ。
そのため急ピッチで修繕している。
土魔法を使える者を中心にレイの奴隷たちが大量に要塞に詰めていた。
タリカとジャイルも領都に移り、避難民帰還の受け入れや治安維持に奔走している。
タリカは砦と領都と行き来して忙しそうだ。
マールが亡くなったことでレイとトムは復興作業に参加せず、自宅でボーっとしたり、適当にダンジョンに潜ったりしていた。
マールが亡くなって5日後、レイは家でブラブラしていた。
トムは朝からハリナやショウダイたちと共にダンジョンに行っているようだ。
マールの死後、レイとは違いトムは積極的にダンジョンに潜っている。
気がまぎれるらしい。
レイが自分もダンジョンに行こうと立ち上がると、困った様子のアカニが訪ねてきた。
「申し訳ございません。宿屋にちょっと困ったお客様が来て。」
「困った客?」
酒に酔って暴れたり従業員に手を出そうとする迷惑客は一定数いる。
そんな時は戦闘が出来る奴隷たちが抑え込み、それでも手に負えないときはレイやトムが捕縛して砦の衛兵に突き出していた。
今回もそんな迷惑客だろうとレイは腰を上げる。
「どんな客だ。」
「紳士的で物静かな方です。」
「ん?」
意外な答えがアカニから返ってきた。
「紳士的なのに困ってるって?」
困惑顔のレイを連れてアカニは宿に入っていく。
受付前には青黒い髪で透き通るような白い肌の男が立っていた。
鎧を身に着け帯剣しているが、どちらも一級品であることが一目でわかる。
「この方なんですけど。お金が。」
「お金?」
黙ったまま男が差し出した金は、レイが見たことのないコインだった。
確かに銀が使われているが今使われているものよりもデザインがシンプルだ。
「他の国で使われてるものか?」
「申し訳ございません。分からなくて。」
アカニが申し訳なさそうに言う。
レイはコイン同士をカチカチとぶつけたり、表裏を眺めたりしたが分からない。
カンタを呼んでくるように近くにいた奴隷に伝え、男には丁寧に詫びて食堂で待つように伝えた。
アカニにはお茶を出すように指示し、カンタたちが来るのを待つ。
男は椅子に座り、静かに出されたお茶を飲んでいた。
「どうしました、レイさん。」
あたふたとカンタが宿屋に入ってくる。
「カンタ、来て早々悪いがこのコイン見てくれ。」
レイが男から預かったコインをカンタに渡す。
カンタはコインをしげしげと眺めていたが、レイに返すと、
「珍しい。20年ほど前に使われてたコインです。」
「そうか。本物か。」
「昔見たっきりなんで、はっきりとは言えませんが。銀は本物かと。」
「そうか。ありがとう。」
レイはカンタが持ち場に戻るのを見届けると、食堂にいる男に近づいた。
「待たせてすまない。もらった金が本物か確認していた。こちらは宿代として受け取る。」
「そうか。使えたか。」
男は少しホッとしたようだ。
「何か食べるか。」
「そうだな。少し貰いたい。」
レイはアカニに食事の準備をするように言い、男に俺のおごりだと伝えた。
「悪いな。」
「こちらが失礼をしたからな。詫びとして受け取って欲しい。」
「分かった。ちょっと聞いても良いか。」
「何だ。」
「レイっていう勇者を探してる。知ってるか。」




