28.杖を持って
「あった。あった。」
マールは嬉しそうに物置小屋で呟いた。夫や息子たちの品を保管している小屋で、ずっと探し物をしていたのだ。
マールの手に収まったそれは、ただの小さい木の棒のように見えた。
「ただいま。」
「お帰り。」
店に戻ると作業を終えてヘロヘロになった2人が猫をおんぶしながら帰ってきた。
レイがタックとフクンを降ろすと、くわーっと伸びをして猫たちが台所へと向かっていく。
用意していた肉とパンの皿を出すと、2人と2匹は両手を使ってがっつき始めた。
一通り食べて全員が満足した後、マールはレイに話しかけた。
「レイよ。」
「はい。」
マールから改まって名前を呼ばれるとドキッとする。
「魔法が使えるようになったと聞いた。これ使え。」
「はい?」
マールから木の棒を渡され、レイはそれを見つめた。
「良いもののようですね。」
「そうかい。爺さんが行商人から騙されて買ったものでね。本物だと良いんだけんど。」
レイはタクトを振るように動かす。
フクンから、
「その先に魔力を込めてみてん。」
と言われ、レイは魔力を杖の先に集中させた。
杖の先がポウっと明るくなり光を放つ。
「確かにいい杖にゃ。」
「これで明日からの作業も捗るにゃ。」
聞けば杖は魔力操作をし易くして魔法の威力が増すという。
「ふっふっふ。明日から覚悟するにゃ。」
タックとフクンがニヒルな笑みを浮かべている。
嫌な予感しかしないレイを横目に、トムは魔法が使えなくて良かったと思った。




