9、タリカ大領誕生
ローミ領からタリカ領の砦に戻ると、タリカの異母兄でありアッカディー国王であるアッカがいた。
「お帰り。」
のんびりとお茶を飲みながら笑顔でレイたちを出迎える。
側には隙の無い目つきの騎士団長ジャイルが立っていた。
「兄さん、来るんだったら言ってよお。」
タリカが正面に座る。
お互い話したいことがあるようだ。
「ごめんね。こっちも色々あって。とりあえず最初に用事済ませちゃうね。」
「何かあった?」
「大陸会議でね。シュミム王国の滅亡が決まった。」
「まっそりゃそうだろね。」
「で、元シュミム王国はアッカディー王国タリカ大領になった。」
「マジか。田舎でのんびりしたいのに。」
タリカが頭を抱えてしまった。
ギルガ神聖国で開かれた各国の国王が集まる大陸会議で決まったそうだ。
タリカ大領の領都はこの砦から元シュミム王国王都に移されることになる。
「取り敢えずタリカ領内の安全確認出来たら領都行ってね。」
「はあああ。」
余程嫌なのだろう。
タリカが盛大にため息をついている。
「っで、タリカの話しは何?」
「ああ。町で無事なのはローミ領とライバ領だけだ。他は良くて半壊、ほとんど全壊。あと国王だけではなく4人の大領主の死亡を確認した。」
「うん。ジャイルから聞いたよ。ドイン殿、惜しい人を亡くした。」
「王侯貴族で生存が確認できるのは、ライバの妻カウミ、息子ライル、ローミの遠縁であるハリナの3人だ。他にいるかな。」
「いたとしてももう王族とも貴族とも認められないだろうね。国が無いから。」
「そうか。どうしよう。」
「ライバ領はそのままライル殿。カウミ殿を補佐としておこう。ローミは…誰かアッカディー王国内から人を出そう。ハリナ殿はレイさんの奴隷ですし、いきなり領主は止めときましょ。」
「うん。あともう少しで領内の安全確認が終わる予定だ。」
「領都の方は安全確認できた?」
「ああ。」
「じゃあ領都を修繕するための人を派遣しよう。」
「それは大丈夫だ。レイの奴隷たちに頼む。」
「分かった。じゃあ僕は帰るね。」
アッカは立ち上がって慌ただしく準備を始めた。
タリカはそれを寂しそうに見つめる。
「もう少しゆっくりしても良いのに。」
「早くタリカ領内を立て直さないといけないからね。帰って人の選定をしなくちゃ。」
アッカは手を振りながら豪奢な馬車に乗って帰ってしまった。
それからレイたちがタリカ大領内の安全を確認した後、被害の無いライバ領とローミ領で住民たちの帰還が始まる。
ライバ領の領主はライルが、その補佐をカウミとリッチ化したライバが行うことになった。
それぞれの領は日常を取り戻すべく、普段の生活に戻っていく。
住民たちが帰還する中、レイたちは再びタリカ大領の領都となる地へと向かった。
レイとトムは破壊された門の前で感慨にふける。
盗みの濡れ衣をかけられて追い出された時は、まさかこんなことになるとは思わなかった。
あの頃の華やかで賑やかな都の面影は全くない。
無人となった町の中でレイたちは静かに歩いていく。
「ここ、あまり崩れてないから俺の屋敷にするか。」
大通り沿いのあまり痛んでいない元商人の建物をタリカの屋敷にすることになった。
一緒に来たレイの奴隷たちがスミスの指揮の下、慌ただしく町の修繕作業に移る。
レイとロックウッドのメンバーは手持ち無沙汰になり、町の中を当所もなく歩いていた。
無言で歩く中、
「レイ。」
とロックに突然呼ばれ、レイは振り返る。
見るとロックは土下座をしていた。
何事かとレイが近づくと、ロックは顔を伏せたまま懇願した。
「お願いだ。俺たちを奴隷から解放してくれ。」




