8、ローミの町の今
レイたちはキッコーリ町近くの魔法陣からドイン領を目指す。
ドイン領は全員がタリカ領に避難していたが、町や村の現在の様子を見るためだ。
だが、アウド領から王都までの町と同様に、全ての町や村が破壊されていた。
それだけではなく、頑丈なドインの要塞も半壊している有様だ。
「全部作り直しだな。どれくらいかかるか分からないが。」
タリカが半壊した要塞を見てため息をつく。
ライバ領にある魔法陣を起動させて一度タリカ領に戻り、翌日ローミの町を目指した。
主のいなくなった町はガランとしていて、不気味なくらい静かだった。
レイたちは一人もいない町の中を歩いていく。
タリカが町を見回しながら呟いた。
「破壊されてないが、人が全くいないな。」
ミナが周囲を警戒する。
「人も魔物の気配も無いよ。次の町目指す?一旦戻る?」
「そうだな。ここで休憩して戻るか。」
全員武器をしまい、町の中央にある広場に座って魔法袋から食べ物を取り出す。
「ん?」
ミナがパンにかぶりつこうとしたところで、耳をピクピクさせた。
「どうした、ミナ。」
「誰かいる。」
ミナの言葉に全員が武器を取り出して警戒する。
「もふほしははふ。」
ロックがパンを食べながらボヤいているが、警戒を怠らずパンを飲み込んだ後ミナに確認した。
「ミナ、どこにいる?魔族か。」
「ううん。人。」
「どこにいる。」
「あっちの方。」
ミナが指さすのは、初心者用のダンジョンだ。
ペガルダンジョンやシニフォダンジョンと比べて地味なそのダンジョンは、初心者向けでスライムやゴブリン、リフラビットなどの弱い魔物が出てくる。
主に魔石やリフラビットの肉を目当てに低レベルの冒険者が潜るダンジョンだ。
全員武器を構えながら近づくと、ダンジョンの中から瘦せこけた人が大きなバケツを手にフラフラと出てきた。
「わあ。」
武器を構えて殺気立つレイたちを見て、腰を抜かしている。
悲鳴を上げているが声に力が無い。
「俺たちは隣の国から来た冒険者だ。」
武器を構えつつロックが話始める。
「おっ俺はっここに住んでた冒険者だ。頼む。殺さないで。」
ロックは土下座しながら命乞いをする冒険者に事情を聴いた。
1か月ほど前ローミが王都から町に戻って来た際、魔族と手を組むと発表したらしい。
そのままローミは側近や囲っていた女たちと共に姿を消したそうだ。
ローミの発表にパニックになった市民のほとんどはドインの部下たちの誘導でタリカ領に逃げたが、外で狩りをしたりダンジョンに潜っていた冒険者やその家族が逃げ遅れたらしい。
「で、ダンジョンに。」
「そうだ。初心者用なら戦えねえ奴でも生きられる。リフラビット狩りゃ食えるしな。」
だが水はダンジョン内で手に入らないため、1日1回交代で水を汲みに外に出てたらしい。
「そうか。もう大丈夫だ。魔族は倒した。」
「ありがてえ。もう限界でな。しばらく肉しか食ってねえ。」
「ダンジョンに籠ってる人たちを呼んできてもらえるか。食事は用意する。」
「ありがてえ。ありがてえ。」
冒険者はそう呟きながらダンジョンに戻っていった。
しばらくすると中からワラワラと20人ほどが出てきた。
子供も3人いる。
皆異様に痩せており、髪や肌がカサガサだ。
レイたちが急いで用意した野菜たっぷりのパン粥を美味しそうに食べている。
「ここから動けそうか。」
食事が終わった後、タリカが声をかけた。
一旦タリカ領に連れていくためだ。
だが最初にレイたちに会った冒険者が首を横に振る。
「いや。子供たちはもうあとちょっとで死ぬって感じだった。とても長い距離は歩けねえ。」
「そうか。馬車もダメか。」
「馬車なら行けるだろうさ。」
「そうか。」
タリカは頷くとレイの方を振り返った。
「もうすぐ日が暮れる。今日はここに泊まって明日戻ろう。」
「了解。」
ローミの館の扉を壊し、全員中に入る。
「なあ。頼みがあるんだが。」
最初にレイたちと会った冒険者が話しかけてくる。
「何だ。」
「酒…ねえかな。」
「無い!」
後ろにいた他の冒険者たちが一様にガッカリしている。
レイは飲兵衛たちと共に夜を過ごすことになった。




