4、ローミの最期
「何だ、あれ。」
タリカの顔が引きつっている。
レイが献上した王冠と杖、マントを身にまとったローミの下半身からは、クモの脚が生えていた。
「おそらく。魔族が何かしたのでしょう。」
後方で杖を構えたサクソウが答える。
杖を持っているサクソウの手がわずかに震えていた。
「生きたまま、あの姿にされたのか。というか、あれはまだ生きてるのか?」
タリカの問いに、サクソウは悲しそうに答えた。
「おそらく死んでるでしょう。今は普通に話してますが、そのうち理性を失って完全に魔物化すると思います。」
「そんな…。」
レシーアもミナもゴザもショックを受けている。
ペガルダンジョンが活性化していた頃、ロックウッドは度々ローミの町を訪れて、ダンジョン内で間引きを行っていた。
当然依頼主であるローミにも会っており、彼の変わり果てた姿を直視出来ないようだ。
そんな会話が後方で繰り広げられている中、ロックは下ろしていた剣を再び胸の前まで上げた。
とても悲しそうに、ロックは言葉をかける。
「ゴメンな。待たせてゴメンな。すぐ楽にしてやる。」
ロックは一気に距離を詰めると、ローミの首を撥ね飛ばした。
頭が完全に離れたローミだが、体はまだウネウネと不規則に動いている。
「まだ生きてるのか?いや、死んでるのか?」
混乱するタリカを尻目に、ロックは振り返って言った。
「レシーア。レイ。頭と体を完全に燃やしてくれ。もう、俺は。」
レシーアは杖を抱えてまま固まっている。
ロックとレシーアの様子を見たレイは、玉座に近づきクモの脚が生えている体を高火力の火魔法で燃やし尽くした。
「てめえええはあああああ!あのときいいいい騙したああああんああん。」
頭だけになっても絶叫しながら悪態をつき続けるローミに、レイは一瞬躊躇した。
まだ彼には意識がある。
もしかしたら自分の回復魔法で助かるかもしれない。
だが、一度魔物化した人間を助けられるのだろうか。
理性を失いつつある状態を元に戻せるのだろうか。
色々なことを考えてしまいローミの頭を燃やすのを迷っているレイに、レシーアは静かに近づいた。
「ごめんなさい、レイ。あなただけにこんな酷いことさせない。」
レシーアは小声で呟くと、高位の火魔法を一気にローミの頭に放った。
悪態をつき続けていたローミの頭は、一瞬にして灰になる。
「レシーア。レイ。すまない。行こうか。」
ロックの言葉にレイは小さく頷いた。
王都の隅々まで探索したが、人間はもちろんのこと魔族も魔物もいない。
「ん?」
「どうした?ミナ。」
ミナが探索の途中突然立ち止まり、耳と鼻を動かしている。
「何か、いる。」
「魔族か。」
「どうだろう。似てるんだけど違う。魔力すごいあるのに殺気無いの。」
「どのあたりにいる?」
「キッコーリの町近くかな。あれ?もう気配無くなった。」
「追うか?」
レイはタリカの方を振り向いた。
「いや。皆もう疲れてるし。もうここに生きてる奴がいないことは分かったんだ。門を塞いで戻ろう。」
レイたちはキッコーリ町の近くにある魔法陣を起動させ、タリカ領へと戻る。
シュミム王国は、王族はもちろんのこと大領主も3人が死に、残る1人も安否が不明だ。
王国の滅亡を目の当たりにしたレイは1週間ぶりに家へと戻る。
マールと3匹が温かく出迎えてくれたが、砦に詰めて警戒しているトムは不在だった。
奴隷に酒の用意をするように伝え、レイは自室に籠った。




