1、アウドの町の今
ドインを火葬した翌日、レイとトムは連れ立って砦へと向かった。
タリカからシュミム王国の様子を見るため、付いてきてほしいと言われたためだ。
砦に着くと、ジャイル率いる騎士団の他にロックウッドとセイクルズのメンバーがいた。
「皆疲れてるところ、すまない。」
タリカが頭を下げる。
「言いにくいが、まずは魔族の火葬をお願いしたい。昨日控えのBランク冒険者たちやレイの奴隷にやってもらおうとしたが、出来なくてな。直ぐにでもやって欲しい。それが終わったらアウド町に行く。」
タリカの言葉にロックが答える。
「じゃあ、レイ・レシーア・ジョナ、直ぐやってくれ。」
ロックの言葉に3人は無言で頷くと、アウドの町側に出る。
一昨日激しい戦闘が行われ、所々窪地があり黒く煤けていた。
魔族たちの死体は動かされておらず、見張りを付けてそのまま放置されている。
放置が長引くとゾンビ化する恐れがあるため、早く燃やす必要がある。
「血に触れるな。人間には毒だ。」
ロックの言葉に鼻と口を覆ったレイたちが慎重に死体に近づく。
最初にレイたちが殺した魔族を燃やそうと3人で向かった。
1匹ずつ3人で最大火力の火魔法で燃やしていく。
4匹とも燃やし尽くして骨を砕き砦へと戻ろうとすると、タリカがゴザとサクソウを従えて出てきた。
「感謝する。これからシュミム王国の町の様子を見る。出来れば行方不明となっている3人の大領主の安否も確認したい。メンバーだが。」
タリカが砦を振り返る。
「俺とレイ、ミナ以外のロックウッドのメンバーで行く。ジョナは砦に戻ってくれ。」
「良いのか。生き残りの魔族に出くわすかもしれんぞ。」
レイの懸念に対してタリカは、
「その生き残りの魔族に砦を襲われる可能性もあるからな。ジャイルには砦に残ってもらう。ミナも戦える状態じゃないだろう。斥候は。」
「ジャミを連れてくか?」
「そうだな。呼んできてくれるか。」
「ああ。」
ジャミがレイに連れられてくると、ジャミを先頭にアウドの町に入る。
「ジャミ、魔族や魔物の気配は?」
「無い。でも生きてる人間の気配も無い。」
少し顔が青いジャミが力なく答えた。
オーガたちが踏みつぶしたのか、豪奢な建物は軒並み破壊されていた。
町の中央にあるアウドの屋敷も半分崩れている。
「町に残った人はいるのか?」
「アウド以外は全員避難した。魔族が襲ってきてるのに居残る奴は普通いない。」
答えるタリカの声が震えている。
もうアウドが死んでいるだろう。
だがもしかしたら、とわずかな希望を胸に半壊した屋敷へと入っていく。
タリカは迷うことなく崩れた廊下を進み、アウドがいたであろう居室にたどり着いた。
部屋の壁や天井には、燃え溶けたものがこびり付いている。
溶ける前は美しい宝飾品だったはずだ。
今は原型を留めておらず、嫌な匂いを放っている。
部屋の中央は黒く煤けて窪んでおり、窪みの底に椅子の足と溶けた靴の底がこびり付いていた。
「アウド…。」
タリカは屈んで、こびり付いた靴の底を触った。
おそらくアウドのものであった靴の底は、タリカが触るとボロボロと崩れていった。
タリカはゆっくりと息を吐くと、レイたちの方を振り返った。
「戻ろう。もうここに魔物も生存者もいない。」
レイたちは無言で頷くと、砦へと戻っていった。




