37、死闘
「急ごう。」
ロックの掛け声に速度を上げる。
魔族側軍勢の最奥、残る1人の魔族がいる所にたどり着いたレイたちが見たのは、今にも事切れそうなドインの姿だった。
「ドイン!」
ロックが駆け寄ろうとするが、ドインの側にいる魔族が近づかせまいと剣を振りかざす。
致命傷を負ったドインに比べ、魔族は傷を負っていない。
「骨折れましたよ、全く。」
魔族は細身の剣をロックに向けた。
それを合図にロックが魔族に切りかかった。
だがロックの鋭い剣を魔族はわずかな動きでかわし、隙をみて斬撃を繰り出す。
みるみるうちにロックの体が傷ついていく。
「あれは。」
魔族のその動きをレイは以前見たことがある。
ジャイルだ。
今ロックと戦っている魔族の動きはジャイルに似ている。
一切の無駄が無く、一切の力みも見られない。
ジャイルと同じ動きを見て一瞬躊躇したレイだったが、トムとゴザが加勢しようとするのを見て遅れて飛び出した。
四方から一斉に切りかかるが全ての攻撃が弾かれ、大したダメージが入らない。
タイミングを見てアレスも攻撃に加わるが、軽くかわされてしまう。
「フェンリルか。珍しいな。」
アレスを見て感想を漏らすほど魔族は余裕を見せている。
一方レイたちには焦りの色が見られる。
魔族だけではなく周囲にいたオーガたちも襲い掛かって来た。
トム・ゴザ・アレスはオーガたちの攻撃を食い止めようと、魔族への攻撃を止めた。
するとまたロックに対する魔族の攻撃が激しくなり、ロックは直ぐにでも倒れそうだ。
「ロック!」
レイが攻撃を激しく繰り出すが、魔族にかすり傷程度のダメージしか与えられない。
(落ち着け。落ち着け。)
レイは無理やり深呼吸する。
ジャイルはどんな動きをしていた。
ハリナは何と言っていた。
教わり始めた頃はチグハグな動きをしていたが、毎日練習する中で「段々形になってますよ。」とハリナに言われるようになった。
(思い出せ。力むな。)
ジャイルの動きを思い出しながら、魔族への攻撃を繰り出していく。
今そんなことを思い出している状況では無いはずだが、レイはそうしなければ勝てないような気がしていた。
「メガヒール!」
後ろからサクソウの声が聞こえてきた。
サクソウが前線近くにいるということは、ドラゴンを全て倒したのだろう。
オーガの数も減っているはずだ。
目の前の魔族を倒せば勝利が確信できる。
ロックも回復して攻撃に加わった。
だが。
目の前の魔族は全く疲れていない。
それどころか先ほどから攻撃が激しくなってきている。
「まあ、何とか形にしてますが、まだまだですね。あの方と比べたらねえ。」
何故か笑みを浮かべながら魔族はレイの攻撃をかわしている。
「レイ!ロック!」
周囲のオーガを全て倒したのか、再びトムとゴザが攻撃に加わった。
「さすがに4人相手は疲れますね。じゃあ。」
その魔族の言葉に反応しようとしたときには既に遅かった。
トム・ロック・ゴザが一気に切り飛ばされる。
数十メートル後方に飛ばされた3人を見て魔族は微笑んだ。
「あとはあなただけですね。じゃ、始めましょうか。」




