35、悪趣味
砦の目と鼻の先にあるアウドの町が黒い霧に飲み込まれていく。
それを見ながらレイたちはどうすることも出来ない。
ミナたちが2度目の偵察から帰って来て3日後の朝、とうとう魔族率いる軍勢がアウドの町に到達した。
意外なことに砦をすぐ襲わず、アウドの町に留まっている。
中の様子を知ることは出来ないが、大体予想は付いている。
アウドの町にいる魔族たちの異常な魔力と殺気で、緊急招集で集まった23組のパーティーの中から気絶したり気分が悪くなって脱落する者が出てきた。
「マズイな。」
タリカが唇を噛みしめる。
「まっ予想出来たことだ。それよか魔族が4人しかいないってのは良いのか悪いのか。」
ドインは冒険者のことよりも魔族のことが気になるようだ。
「もしかしたらローミやライバんところに散ったのか。」
「そうでは無いだろう。」
「何か知ってんのか、レイ。」
レイはキッコーリのことを言おうかどうか迷った。
もしかしたら爆発は関係ないかもしれない。
そんなレイの目の前にドインの顔がズイッと迫る。
確実ではないがと、キッコーリの持っていた魔法のおたまと爆発のことを話した。
「じゃあ、爆発は。」
「キッコーリさんが起こした可能性が高いです。」
「そうか。それで魔族が減ったかもな。」
ドインはロックたちを呼び、対魔族戦の分担を変える。
レイとアレス、トムとゴザに分かれ魔族と戦うことになった。
ロックとドインはそれぞれ1人で魔族と対峙する。
魔族たちがアウドの町に到達した1時間後、不意にオーガたちが町から出てきた。
防壁を破壊し出てきたオーガの数は、ドインの要塞で見た時よりもはるかに多い。
よく見ると先頭には3人の魔族がおり、それに従うオーガたちが何かを担いでいる。
その様子を望遠鏡で見ていたタリカが吐き捨てるように言った。
「悪趣味だな。」
放り投げられた望遠鏡を空中で受け取り、レイも様子を伺う。
オーガたちは玉座のようなものを担いでおり、そこにはシュミム王が裸で座らされている。
オーガの肩に飛び乗った魔族の1人がシュミム王の頭を掴んだ。
既に切り落とされていたのだろう。
シュミム王の頭が高々と掲げられ、砦へと投げつけられた。
その様子を見てゲラゲラ笑っている魔族たちを見て、ドインは静かに言った。
「行くぞ。」




