31、迎撃準備
「そうか。魔族は7匹。ブラックドラゴンが30匹ほど。その他のドラゴンが50匹ほどか。」
「うん。ドラゴンの背中にオーガが乗ってた。全部で500匹くらいかな。」
「厳しいな。時間が迫ってるということか。」
10日ほどしてミナとジャミが帰って来た。
報告を聞いたタリカの表情が暗い。
オーガは力が強く頑丈だが動きがノロい。
オーガの移動速度であれば2か月以上の猶予がある。
だがドラゴンの背中に乗っているとなれば、砦に到達するのは5日以内だろう。
「緊急招集された冒険者たちはどのくらい集まってる。」
ロックが質問した。
「23パーティー来てる。レイとロックで参戦させる奴を決めてくれ。」
「分かった。どこにいる?」
「砦そばの宿に詰めてる。」
「会議が終わったら行く。」
「頼む。」
「しかし少ねえな。冒険者。」
ドインが言う。
「時間が無かったからな。集まった冒険者は元々アッカディー王国内で活動してた奴らだ。今冒険者が多いのは、あの小国群あたりだ。あそこからだと急いでも2カ月はかかる。」
「ダンジョン多いからな、あそこら辺。」
ドインが腕を組み天井を見ている。
「今、ここにいる戦力だけで考えないといかんのか。」
「魔族とサシで戦える奴は。」
「俺・ロック・ゴザ・レイ・トム。」
「後2人か。ジャイルはどうだ。」
「ジャイルには後方から全体指揮を執って欲しいからな。戦いが始まったら。」
「足りんぞ。」
「俺の部下と奴隷から複数人出す。」
「そうか、拘束してた犯罪奴隷と怪しい連中はどうした?」
「ああ。あいつらか。」
ドインがニヤリと笑う。
どうやら連中と取引をしたらしい。
詳しく話を聞くと、全員で一斉にドインと戦って連中が勝ったら解放して避難させる条件で勝負したそうだ。
「で結果は。」
結果は分かっているが一応タリカが聞く。
「俺が勝つに決まってんだろ。既に役割も決めて配置してる。」
タリカは苦笑いだ。
「でレイたちの方は。」
「報告した通り魔法部隊は2部隊。近接は前にドイン所で戦った奴らを配置する。」
「スミスは。」
「もう装備の修理と補修は終わってる。ミスリル合金とグリーンドラゴン製の鎧が無い奴はいるか。」
「ロックに付いて行って冒険者たちの装備を確認してくれ。」
「分かった。」
「ミナ、ジャミ。一晩休んだら偵察お願いできるか。」
「分かった。いつこっち来るか警戒するよ。」
「じゃあ、解散。それぞれ作業に戻ってくれ。」
『おう。』
レイがロックと連れ立って宿に向かおうとしたところ、ハリナに呼び止められた。
「あの。レイ様。」
「何だい。」
「私、参加したいです。」
ハリナは魔族戦に参加したいらしい。
だがレイは断った。
「はっきり言ってハリナは力不足だ。ドラゴンは何とか倒せるがブラックドラゴンはキツいだろ。」
「でも。」
「警備に集中してほしい。俺たちが全力で戦うためにも必要なんだ。そして万が一があった時は逃げてくれ。マールさんやスミス、エラのことも。信用できる人にしか頼めないんだ。頼む。」
「はっはい。」
ハリナやカンタ、チルたちは避難所の警備や運営に回ってもらう。
そしてレイたちが負けて砦が突破された時は、マールたちを連れて隣領まで逃げてもらうことになっている。
前線で戦うことは無いが、大切な役割だ。
信用できる人に頼みたい。
それぞれの強さによってそれぞれの役割が決められている。
レイはハリナと別れると、宿へと向かった。
今度はジャミに呼び止められる。
「ねっねえ、レイ。」
「どうした。」
「あの…言いにくいけど…。さっき言ってなかったことあって。」
「何があった。」
「師匠と偵察に行ったときね、キッコーリ町で凄い爆発があったんだ。師匠は魔族が暴れてるんじゃって。」
「そうか。」
「キッコーリさんは。」
何が起こったのかレイには分かる。
キッコーリは命を賭してやり遂げたのだろう。
「ありがとう。だが今のことは誰にも言うな。特にマールさんには。」
「うん。」
「ジャミもゆっくり休んだら偵察頼む。」
「分かった。任せて。」
ジャミは青い顔をしていたが、無理やり元気に返事をした。
ジャミが家に帰るのを見届けると、レイはロックの後を追って宿へと向かった。




