27、対魔族会議
レイたちが砦1階の大部屋に行くと、ジャイルが部下と共に既に座っていた。
タリカ・ジャイルの他、レイ・トム・ロックウッド・ドイン・ジャミ・カンタ・ハリナたちが参加する。
タリカが地図を前に確認を始める。
「まず今の状況だ。避難は完了してるか。教えてくれ。」
カンタが立ち上がる。
「避難は8割ほど完了しとります。建物も急いで作っとります。何とか全員収容できる予定です。」
「感謝する。この地で野宿はつらいからな。作業を続けてくれ。」
「はい。」
「領内の状況はどうだ。治安は。」
キリっとした表情のハリナが答える。
「ダンジョンと毒の森と領境の警備を強化してます。隣領から人の入りはありません。犯罪奴隷やタリカ様・レイ様がはじいた避難民はどうするかご指示を頂きたい。」
タリカとレイは時間の合間を縫って避難民たちの鑑定を行っていた。
そこで『問題あり』と判断された避難民や犯罪奴隷は今、一ヶ所に集められて見張りを付けている。
「ドイン。」
「おう。俺の奴隷にするわ。」
「避難民が素直に奴隷になるとは思えんが。」
「そこは俺に任せてくれ。手は打ってある。」
ドインがニヤリと笑う。
タリカは皆を見回しながら人間側の戦力について説明を始めた。
「冒険者ギルドがBランク以上の冒険者に緊急招集をかけた。大陸中からここに来る。商人ギルドからもポーションや装備が提供される予定だ。」
「間に合うのか。」
ロックに質問に、
「分からん。だが緊急だから拒否権は無い。時間が稼げれば戦力が増す。時間が稼げればな。ドイン、どれくらい戦力あるか。」
「俺の所はざっと500だな。ドラゴンと戦える奴は。」
「レイは。」
「300だ。装備は今スミスたちが作ってる。」
「騎士団から100名ほど連れてきました。」
ジャイルも会話に加わる。
「魔族側の戦力が分からん。ジャミ、どれくらいか分かるか。」
「正確には分かんない。でも前にドイン所で戦った時より多いと思う。離れててもすごい殺気だった。」
「そうか…。」
タリカは気まずそうにロックウッドの方を見た。
「何だ。」
ロックが警戒する。
「すまないが。ミナ、偵察に行ってくれるか。相手の戦力が知りたい。」
ロックが抗議の声を上げる前に、ミナが冷静に答える。
「分かった。準備する。」
「すまない。」
「いいよ。ジャミ、行こう。」
ジャミの顔は真っ青だ。
いつもならゴネるはずのジャミが、今回は素直に頷いた。
「行きます。師匠。行かないと全員死にますもんね。俺たちにかかってるんですよね。」
「そうだね。行こっか。」
「はい。」
レイやロックが止める間もなく、2人は部屋から出ていった。
「レイ、ロック。独断で決めてすまない。相手の戦力が分からんと作戦が立てられない。」
「いいさ。ミナは分かってるはずだ。」
「ジャミもな。あの2人なら逃げきれるだろ。」
不満が無いわけではないが、今は言い合いをしている時間も惜しい。
「で、だ。」
今度はタリカがドインの方を振り向いた。
「魔族戦の指揮はドインに執ってもらいたい。」
「タリカ様、気は確かですか!」
ジャイルとアッカディー王国騎士団が抗議の声と共に立ち上がった。
本来ならば領主であるタリカが魔族戦の指揮を執る。
しかしタリカはその役目はドインこそが相応しいという。
ジャイルたちの抗議に対してタリカは冷静に反論した。
「確かにアッカディー王国の面目は丸つぶれだ。だが考えてもらいたい。もうこれは国同士の戦いではない。ここで俺たちが負けてみろ。どうなると思う。」
その言葉にジャイルは口をつぐんでしまう。
タリカは言葉を続けた。
「絶対に勝たなきゃいけない。この中で一番場数踏んでんのはドインだ。ドインに指揮を任せるのが一番可能性があるんだ。」
皆の視線がドインに集中する。
ドインは任せろと力強く頷いた。
「やるぞ俺は。魔族が何人来ても絶対に倒す。」
ドインの目が鋭く光った。




