26、アウドとローミ
タリカ領は既に戦場のような様相で、タリカの指揮で皆が慌ただしく働いていた。
避難民の中から戦える者を強さで振り分けていく。
ドラゴンと戦えるほどの強さをもつ者は、砦近くで待機している。
戦えない子供とその家族は、毒の森近くまで更に避難させる。
火事場泥棒がいないかの見張りやダンジョンに間違って避難民が入らないようにするなど、色々なところに気を使わなければならない。
「タリカ様、新しく来た避難民が建物に入れず溢れかえりそうです。」
カンタが珍しく慌てている。
シュミム王国から逃げてきた人はタリカ領に町が出来てから、ざっと10万人を超えていた。
2万人ほどが既にレイの奴隷になっている。
6万人以上が他国に住む家族などの伝手を頼って、タリカ領以外の地域や国に移住している。
この3日で残りの2万人ほどが避難してきたわけだが、レイの従魔であるリザードホーズたちが猛烈なスピードで移送しても、砦近くは人で溢れかえっていた。
「他のリザードホーズの馬車も使え。あと急いでテント作れ。」
『はい。』
レイの奴隷たちがタリカの指示で散らばっていく。
レイはドイン領にある魔法陣からジャミが帰って来たのを見届けると、魔法陣を全て使えなくした。
タリカに呼ばれてドインやロックウッドの面々と砦に集まる。
タリカは地図を前に部下たちと話し合っていた。
「避難は終わったか。」
「ほとんどな。だがローミは見つかんねえ。」
ドインは渋い顔だ。
「看板立てたりしたんだが。全員かは分からんな。」
ロックが沈んだ声で答える。
旅の途中や町から離れた所に住む人まで連絡は行き渡っていない。
突然魔族に襲われて命を落とす者もいるだろう。
「気を落とすな。出来るだけやったんだ。」
タリカが慰める。
「ローミは色んなとこに隠れ家があるからな。そこに隠れてんだろ。アウドはどうだ。」
ドインがアウドの名前を出した途端、タリカの顔が険しくなった。
「あいつは…もういい。」
投げやりな感じで言い放つ。
タリカとアウドは旧知の仲だ。
お互い憎まれ口をたたきあう関係だが、過去には付き合っていたことがあると噂されている。
そんなこともあってかアウドの身を案じるタリカは時間の合間を縫って自ら説得しに行った。
だがアウドは、
「魔族と手を結んだから私は安全。どうせ逃げてる間に財産盗むんでしょ。出てって。」
とタリカを追い返したらしい。
無理やり連れて来ようとすると剣を抜いて抵抗した。
アウドの部下や衛兵たちを連れてくるのが精一杯で、タリカとアウドはすっかり仲たがいをしたようだ。
「もうこれ以上は無理だ。今からは魔族迎撃に向けて会議する。1階の広い部屋に来い。」
結局シュミム王国の大領主の中で、タリカ領に来られたのはドインだけだ。
ライバの行方もまだ分からない。
レイたちは慌ただしく1階の大部屋へと向かった。




