25、避難拒否
レイは仮眠を取った後、トムと共にキッコーリ町近くの魔法陣へと向かう。
夜になり魔物が跋扈する時間だが、王都にいる魔族に知られないように避難するためだ。
「来たか。」
キッコーリ町近くでゴザと落ち合った。
ロックウッドも3日間ほぼ休みなく働いているためか、さすがに疲れているようだ。
「レイ、お疲れ。キッコンにはもう言ってある。」
「そうだな。トム、ゴザを手伝ってくれ。」
「おう。行きますか。」
レイはトム、ゴザと共にキッコーリ町に向かう。
キッコーリの町には既にサクソウがいて、住民と共に準備を終えていた。
皆一様に不安そうだ。
「王都から後何人来る?」
「1,000人くらいか。ロックとドインが手分けして連れてくる。夜明け前に着くと良いが。」
「だな。」
王都からの避難民と合流し、転移魔法陣からタリカ領に向かう予定だ。
トムがゴザと一緒に100人くらいの第1陣を連れて魔法陣のある場所まで歩く。
子供たちは馬車に乗せ、何往復もしながら全員を避難させる予定だ。
レイはキッコンと共に町に残り、手分けして家を封鎖していく。
「おう、連れて来たぞ。」
ロックがレシーアと共に王都からの住民を連れて来た。
夜道を休まずに歩いてきたからか、皆疲れて眠そうだ。
「あともう少しだ。歩けるか。」
ロックが声をかけ短い休憩の後、魔法陣へと歩き出した。
その後ドインとミナが残りの王都の住民を連れてきて、魔法陣へと誘導する。
夜明け前にほぼ全員の避難が完了し、レイは額の汗を拭う。
「あとはキッコンとキッコーリさんだけだ。2人は家にいるのか。」
「レイ、どれくらい時間が残ってるか分からん。直ぐに2人を連れて来い。」
ドインから声をかけられる。
レイがトムと一緒にキッコーリの家に行くと、キッコーリとキッコンが揉めていた。
「父さん!早く!」
キッコンが腕を引っ張って立たせようとするが、キッコーリは椅子から頑として動かない。
「どうした、キッコン。」
「父さんが、行かないって。」
普段は父親のことを『町長』と呼んでいるキッコンは、相当焦っているのか父さんと呼んでいる。
いつも飄々としているキッコンが今にも泣きだしそうだ。
驚いたレイとトムがキッコンに加勢しようとすると、キッコーリが穏やかに話始めた。
「おっ、丁度いい所に。キッコンを連れて早う逃げてください。」
「キッコーリさんも一緒に。」
「ワシはええ。ここの町長だかんの。」
「他の町長も村長も皆逃げてます。早く。」
「いんや。ワシは残る。」
トムが力づくでと近づいた所キッコーリの目が鋭くなり、持っていたおたまをトムに向けた。
「それ以上近づくとぶっ放すからの~。」
相当の魔力が込められたおたまは、妖しく光っていた。
「トム下がれ。あれは強力な魔道具だ。」
レイがトムを押しとどめる。
レイがキッコーリをどう説得するかと思案していると、通信袋からジャミの焦った声が聞こえてきた。
「レイ、来る。来ちゃうよ。」
「ジャミ、逃げろ。」
ディアクス山を魔族と魔物が超えて来たらしい。
レイは直ぐにでもタリカ領に入り転移魔法陣を使えないようにしなければならない。
ケガしてでもキッコーリを縛ろうと身構えるレイに、キッコーリは微笑みながら言った。
「覚悟は出来とるんじゃ。あのオークの時から。もう十分長生きしたからの。ワシのワガママを聞いてくだされ。」
トムはその言葉を聞くと歯を食いしばり、突然キッコンを縛り上げた。
「トム、何を!」
泣き叫ぶキッコンを担ぎ上げ、トムは一目散に転移魔法陣へと走っていく。
レイは色々とキッコーリに伝えたかったが、喉に何かが詰まったように言葉が出なかった。
「キッコーリさん…これマールさんから。」
マールから預かった酒とつまみをキッコーリに渡す。
「おっ、分かっとるの。さすがマール。美味そうじゃ。」
ウキウキとしながら棚からコップを取り出したキッコーリに、レイは深々と頭を下げた。




