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復讐者  作者: 安慶
人魔戦争
251/421

24、あの時の衛兵長

 魔族が通るであろうルート上にある各町村の避難準備が進んでいる。

タリカの指示で、魔族がいる王都と近くのキッコーリ町は最後に避難させるそうだ。

トムは心配そうな顔をしていたが、王都にいる魔族に気取られないようにする必要がある。

 ドイン領とライバ領が完了し、王都直轄領とアウド領の避難が始まった。

アウド領の重税や治安の悪化によって、既に多くの人々が他の国に移動している。

元大領主であるドインの影響力は凄まじく、ほとんどの町や村は素直に避難することに同意した。

 だが大きな町ほど、話が通じにくくなる。

ドインでも説得に苦労する町があるらしい。

3日かけて避難を進め、完了していないのは残り4つになった。

アウドが住む領都と王都、キッコーリ町と王都直轄領に接する町だ。

 ドインが説得に苦労していると聞いて、レイはその町に赴いた。

ドインと共に町に入ると衛兵が飛んできて待つようにと言う。

衛兵の詰所で待つ間レイは懐かしそうに、だがあまり思い出したくなさそうに周りを見渡している。

「お待たせしました、ドイン様。」

ガタイの良い衛兵長が詰所へと入ってくる。

「用件は前と同じかと。ですが町長不在の今、勝手に町を離れることは出来ません。」

「ダメか。ほとんどの住民は避難して残るはお前たちだけだぞ。」

「ですが自分たちには町を守る使命がある。長の許可を得ないことには動くことは許されません。」

「その町長は真っ先に逃げ出したと思うんだけどな。」

2人の押し問答が続く中、レイは衛兵長に話しかけた。

「お久しぶりです。」

衛兵長はあごに手を当て不思議そうに首を傾げた。

「以前お会いしたことが。」

「盗賊の討伐の時。セイクルズと一緒に捕まえて、保護した女の人たちを俺の奴隷にしました。」

「ああ。」

以前レイとトムは、セイクルズと共に盗賊を討伐したことがある。

その時に対応した衛兵長が、今目の前にいる。

「勝負しましょう。」

レイは突然提案する。

「勝負?」

「魔族は強いです。俺が勝ったら避難してください。衛兵長が勝ったら食料や装備を無償でお渡しします。」

衛兵長が苦笑した。

「良いでしょう。住民もほとんどいなくなって暇なのでね。」

レイと衛兵長は木剣を手に取ると、詰所から出た。

暇を持て余した衛兵たちが2人の周りを囲んで囃し立てている。

「誰か合図を。」

「うっす。分かりました。始め。」

1人のノリがいい衛兵の合図に、衛兵長は前に踏み込み素早く剣を突き出した。

かなりのスピードで並の冒険者であれば負けていただろう。

 だが、レイは突きを避けると衛兵長の利き手に木剣を振り下ろした。

衛兵長は短い悲鳴を上げ剣を落とす。

あまりにあっけない勝負に、周囲の衛兵はあ然としていた。

「約束ですよ。避難してください。」

「分かった。聞いてくれ。俺たちも行くぞ。」

『はいっ。』

レイは衛兵長の手に回復魔法をかけた。

「有難い。」

小さな声で衛兵長は感謝する。

 多くの住民が町を既に離れており空き家は封鎖をしているためか、避難準備にそれ程時間はかからなかった。

「やったな。後はキッコーリと王都か。」

ドインは少しホッとしたように言った。

「ローミ領は。」

「俺の部下たちがやってる。この町が終わったらキッコーリ町に行くぞ。」

町の門を封鎖して、衛兵長たちと共にレイは転移魔法陣からタリカ領に戻って来た。

ドインはそのまま王都に行くようだ。

もう日が傾いている。

レイは一度自分の家に戻ることにした。

 レイは自分の部屋に戻ると、椅子に身を沈めてため息をついた。

ここ3日ロクに寝ていない。

レイが仮眠を取ろうとしている中、

「ちょっと良いかい。」

とマールが部屋に入って来た。

レイはハッとしたように目を開く。

「すまんね。寝ようとしてるとこに。」

「良いんです。どうしました。」

マールは手に酒とつまみを持っていた。

飲みたいのかとレイがグラスを持ってこようとするのをマールが止める。

「飲みたいわけじゃないんだ。これをキッコーリに渡してくれ。」

マールは酒とつまみをレイに渡した。

「自分で直接。」

「良いんだ。会うと寂しくなるからね。」

 そう言いながらマールは部屋を出ていった。

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