23、ライバ領からの避難
ライバの妻カウミは覚悟していた。
夫からの連絡は無く、夫の従魔たちが暴れ始めた。
息子はレイに連絡する前は気丈に振舞っていたが、今は泣きじゃくっている。
「ライル。カウミさん。夜遅くすいません。」
汗をかきながらレイとトムが屋敷に来た。
夜も遅いがライルから連絡をもらい駆け付けたらしい。
「申し訳ございません。こんな時に。」
「いえ。まずは従魔を大人しくさせましょう。」
「はい。お願いします。」
今はライバの部下たちが暴れる従魔を押さえている。
レイは暴れる従魔を見ると唇を噛みしめ、従魔紋に魔力を流す。
次々とライバの従魔を自分の従魔にしていく。
カウミもレイも話はしないが、ライバに何が起こったのか分かっているのだろう。
「レイ様。ありがとうございます。」
全ての従魔紋にレイの魔力を流した後、カウミはお礼を言った。
「お願いです。何が起こったのか教えていただけませんか。」
「実は。」
レイからシュミム王国が魔族と手を組んだことを聞き、ライルとカウミの顔が強張る。
「そんな恐ろしいことが。」
「ここも安全ではありません。カウミさん。冒険者ギルドと商人ギルド、衛兵たちを通じて町の人たちに伝えてくれませんか。」
ライバに何かが起こったことは明白だ。
そうするとライバの強さで守られていたこの町も危険かもしれない。
レイはライバの町の住民を夜明けとともに避難させることを勧める。
「分かりました。直ぐに。」
カウミの行動は素早かった。
ライバの部下や衛兵たちを集めて、魔族のことを伝える。
動揺が広がる中カウミは各ギルドに連絡し、衛兵や部下たちを集めて町の各所に配置した。
配置が完了した後、カウミは屋敷近くにある物見塔から強烈な光魔法を放った。
光魔法が放たれると同時に、耳障りな鐘の音が鳴り響く。
緊急用の鐘の音だ。
音に驚いて飛び出してきた住民に、衛兵たちが説明する。
慌ただしく避難準備をする中、カウミはレイとトムに言った。
「夜明けまで少し時間があります。屋敷でお休みくださいませ。」
「俺たちも手伝いたい。」
「お気持ちだけで。この町のことは私たちが知り尽くしています。お話が本当でしたら、魔族と戦うかもしれないレイ様とトム様は少しでもお休みになられた方が良いと思います。」
「レイさん。お言葉に甘えましょう。」
トムもカウミと同じ意見のようだ。
「眠れるか。」
「眠れませんよ。でも目を閉じて横になって休まないと。」
迷っている時間も惜しい。
レイはカウミの言う通り、少しだけ休むことにした。
レイたちが休んでいる間も避難準備が進んでいく。
衛兵やギルド職員・Bランク以上の冒険者たちが各戸を回り、住民たちを引き連れて門の前に集めていた。
人がいなくなった建物は確認の後封鎖し、人が入れないようにしている。
1つの大きな町の避難準備が完了する頃には、東の空が薄らと明るくなっていた。
仮眠を終えたレイたちは、住民と共に迷いの森にある転移魔法陣を目指す。
「ぬっ。いきなり現れたと思ったら大勢連れてきおって。」
キングウルフが迷惑そうに頭を上げた。
「すまない。魔法陣を使う。」
レイが詫びる。
「何をそんなに急いでいるのだ。」
「魔族が来る。」
「何だ。そんなことか。」
キングウルフは魔族に興味が無いようだ。
「キングウルフさんたちも一緒に行かないか。」
「ふざけるな。人間臭い所なんざ行くか。魔族ごときで。」
「そうか。何か困ったことがあったらすぐ言ってくれ。魔法陣もこの後閉じる。」
「次は他所に作ってくれ。煩くてかなわん。」
キングウルフたちは特に動くつもりは無いようだ。
レイはキングウルフに礼を言った後、転移魔法陣からタリカ領へと戻った。




