21、ライルから
「来ちゃった。」
「早い速い早い速い。」
夕方、突然来たドインにレイは慌てていた。
ドインは王都からキッコーリ村の魔法陣を使ってタリカ領に来ている。
来る前にドイン領中に魔族のことを伝えたのか、避難してきた人々とドインの部下がレイの家にある転移魔法陣からあふれ出てくる。
シュミム王国が魔族と手を組んだことをドインから伝えられると、タリカ領は騒然となった。
タリカはアッカ国王に連絡し、ジャイル率いる王国騎士団の精鋭部隊が来ることになった。
その他色々な所に連絡し、いつもとは打って変わってキビキビと働いている。
レイの仲間たちも臨戦態勢になる。
①スミスとその弟子たち 装備の製作と補強、修繕
②マールと戦えない奴隷たち ポーション作り、保存食作り
③エラ 魔法袋・通信袋、その他魔法具の製作
④カンタとチルとアカニ ドイン領からの避難民の受け入れ
レイとトムはロックウッド他戦える奴隷たちとドインたちと合同でゴーレムダンジョンとドラゴンダンジョンに潜ることにした。
少しでもレベルを上げるためだ。
レイとトムが慌ただしく装備を身に着けていると、タリカから至急砦に来るようにとの連絡が来た。
ドインやロックウッドと一緒に砦へ向かう。
「来たか。手短に言う。」
タリカはシュミム王国の地図を広げて眺めていた。
食事をする時間が惜しいのか、立ったままパンを食べている。
レイの返事を待たずに今後の計画を話す。
「時間は無い。シュミム王国の市民をこっちに避難させる。魔法陣を使え。魔族が襲ってくるとしたらこのルートだろう。」
タリカはドイン領の砦からキッコーリ町、アウドの町までの道のりを指でなぞる。
キッコーリ町を指された瞬間、トムの顔が青ざめた。
「相手は魔族だ。魔物を大量に引き連れてくるだろう。途中の村や町は単なる食料補給の場所だな。」
魔物は人間を食べる。
ルート上の町や村の人間は、魔物の食料となる可能性が高い。
「ドイン、各町や村の長宛に手紙を書いてくれ。署名入りのやつ。レイ、顔が利きそうな奴隷使って、届けてくれ。」
「分かった。ライバやローミん所は。」
「避難させたいがまずはルート上の所からだ。」
「分かった。」
レイはハリナとカンタを呼び、タリカの計画を手短に伝える。
2人は青ざめた顔で頷いた。
すぐ側をマールにこき使われて、砦へとポーションを運んでいたジャミが通る。
「ジャミ。」
「何?」
「すまない。ディアクス山を見張ってくれるか。」
ジャミの顔が不安そうになる。
「もっと魔族とか魔物来んのかな。」
「間違いなくな。避難してるときに来たら悲惨だ。」
ジャミは行きたくないと駄々をこねるかと思っていたが、意外にも直ぐに頷いた。
「分かった。行く。」
「魔法袋と通信袋を持ってってくれ。危なくなったら直ぐ避難しろ。」
「うん。」
ジャミは2つの袋を握りしめて飛び出していった。
レイたちが魔法陣を使ってシュミム王国に行こうとしたとき、レイの通信袋から男の子の小さな声が聞こえてきた。
「レイさん。僕です。ライバの息子のライルです。」
「ライル、どうした?」
「父様が、父様から連絡ないんです。」
それだけを言うと、ライルは泣き出してしまった。




