19、同盟
シュミム王国の大臣は執務室で頭を抱えていた。
目の前にはギルガ神聖国の教会本部から送られてきた手紙がある。
そこにはアッカディー王国と誘拐した人たちに対して賠償金を支払うように記されていた。
「何が賠償金だ。アッカは被害無いくせに。」
怒りに任せて手紙を鷲掴みにすると、ゴミ箱に投げ入れる。
シュミム王国の被害は甚大だ。
騎士団長だけではなくオシュ王都管理長も死に、騎士団は壊滅状態。
騎士団長の弟である冒険者ギルドの教官も死んだ。
冒険者ギルドから何の連絡も無いが、今後国から何かを要請しても協力は得られないだろう。
大臣が再び頭を抱えていると、何者かが入ってくる音がした。
「おい。ワシの食事はまだか。腹減った。」
お腹をさすりながらヨタヨタとシュミム王が入ってくる。
大臣は王を睨みつけると、手近にあった物を次々と投げつけた。
「腹減ってんなら自分で作れよ、ジジイ!誰のせいでこうなったと思ってんだ!」
大臣の勢いにシュミム王は慌てて出ていく。
もう料理人も世話をする侍女も残っていない。
ほとんどの部下や使用人が出て行ってしまった。
中には黙って夜逃げした者もいる。
今城内にどれだけの者が残っているだろうか。
比較的戦争の影響を受けていないライバとドインには、物資と人を至急寄こすよう3日前に連絡した。
今までは文句を言いつつも応じていた2人だが、今回は何の連絡も寄こさない。
大臣が頭を抱えたままでいると、何者かが入ってくる音がした。
またあのジジイかと、大臣はキッと入って来た者を睨みつける。
だが次の瞬間、大臣は睨みつけたことを後悔した。
青黒い肌で赤い目の男が入り口に立っていた。
背丈は人間と同じくらいだが、体から溢れる殺気が尋常ではない。
大臣は椅子から飛び退き、叫び声を上げようとする。
だが、口の奥に何かが張り付いて声が出ない。
声が出た所で、叫び声を聞いて駆けつける兵が城に残っているだろうか。
汗をダラダラ流す大臣に、男が笑みを浮かべながらゆっくりと近づいた。
「ご安心を。危害を与えるつもりはございません。この国の惨状を聞き、馳せ参じた次第でございます。」
男は大臣の目の前で深々とお辞儀すると、話を続けた。
「隣の国からの攻撃に怯え、大変な事でしょう。つきましては私たちからご提案が。」
大臣は男からの提案を黙って聞いていた。
2つ3つ質問した後、大臣は引きつった笑みを浮かべて男の提案を受け入れることにした。




