18、剣聖の教え
レイはタリカ領に戻ると早速ハリナに剣聖のことを聞いた。
ハリナは眉を寄せながら答える。
「私は直接の指導を受けていません。世代が違うもので。」
「そうか。」
ハリナが物心つく前に亡くなったそうだ。
剣聖は生きていれば50歳を超えている。
だが、とハリナは話を続けた。
「お弟子さんに半年ほど指導を受けたことがあります。士官前の14歳のころでしたか。」
「どのような指導だったか、俺に教えてほしい。」
「そうですか。少し記憶があやふやな所がありますが。」
「それでも構わない。」
「それでは。」
トムやロック・ゴザも誘い、ハリナの指導を受ける。
体の全ての部分は繋がっている。
体全体の動きが流れるように、1つ1つの動きを意識する。
常に力を入れる必要は無い。
息を吐く瞬間、最も攻撃が乗る体の部分に力を入れる。
足に体重をかけすぎない。
相手の攻撃を受ける時は勢いを殺すように正面から力で受け止めない。
相手の動きを常に見る。
空気の流れを見る。
息を止めてはいけない。
呼吸を乱してはいけない。
相手から目を逸らしてはいけない。
だが周りも見なければならない。
考えすぎてはいけない。
考えなく戦ってもいけない。
迷ってはいけない。
防御も攻撃も全てが滑らかに動くように、無駄な動きをしない。
極めると意識することなく最適な動きが出来るようになり、最高火力の攻撃と防御が出来るようになるそうだ。
色々なことを言われすぎて、レイは頭がクラクラしてきた。
トムもロックもゴザも、ちぐはぐに動いて息が上がっている。
「すいません。私の指導が悪いんです。」
レイたちがあまりに覚えが悪いため、ハリナが落ち込んでいる。
「自分ら戦いのセンス無いんすかね。」
とうとうへたり込んだトムがぼやいた。
「私が指導を受けた際は、まずは剣を正しく振る所から始めました。」
「剣なんてどう振っても一緒じゃね。」
息が上がったロックが言うが、ハリナは首を横に振った。
「私の師匠が言うには、極めた方とそうでない方は剣一振りとっても全然違うそうです。剣聖様の動きは一切の無駄がなく、気が付いた時は剣先が目の前にあったそうです。」
「そこまでの動きに俺らなれんのか。」
肩で息をしながらレイが呟く。
レイの呟きにトムが答えた。
「まあ、仕事の合間にやるしかないっすね。極めたらあんまり疲れないだろうし。」
「そうだな。ゔっしんど。」
吐きそうな声を出してロックが膝をついた。
レイたちは早々に練習を切り上げる。
次の日猛烈な筋肉痛がレイたちを襲った。




