17、ドイン領の今
「ああん?勝手に来てんじゃねえよ。」
普通の人間ならばドインの睨みにビビりまくるところだが、タリカとジャイルは平然としていた。
「おあいこだな、これで。」
タリカはそう言い放つと、砦の中を珍しそうに見ている。
ローミ領に泊まった翌日、レイたちはドイン領を訪れた。
無骨な砦では、ドインとその部下たちが暇を持て余していた。
レイはディアクス山を望遠鏡で覗いたが、きれいな空が見えているだけだ。
魔族たちが襲ってくる気配はまるで無い。
「平和だな。この領は。」
タリカは出されたジュースを飲みながらのんびりしている。
「いや、何も無い方が不気味です。奴らが何を考えているか。」
のんびりするタリカをジャイルが諫める。
「分かってるじゃねえか、若いの。前回は魔族3人で攻めて来たからな。何企んでるのか分からねえ。」
「だから鍛えるんですね。」
「おうよ。ローミ領の警備もあるからよ。中々忙しいんだわ。」
実際、ドインは2つの領を管理しているようなもので、かなり忙しそうだ。
だが人間離れしたドインは疲れも見せず、2つの領とタリカ領を渡り歩いている。
「この領は戦争後どうなんだ。」
タリカはストレートにドインに尋ねる。
「言うわけねえだろ。飲んだら早く帰んな。」
当たり前だがドインは領の内情を言わないようだ。
「あっそうだ。」
レイが何かを思い出してジャイルの方を向いた。
「ジャイルさんに聞きたいんですけど、ドインと互角に戦ってたのコツとかあるんですか。」
「言いませんよ。敵国では。」
ジャイルがレイを睨む。
「そりゃは剣聖の弟子だからな。」
ドインの一言にジャイルは驚く。
「何故、それを。」
「こっちも魔族と戦ってんだわ。必要な情報はギルガ教会から入ってくる。」
ジャイルが渋い顔をする。
「剣聖って。」
レイは初めて聞く言葉だ。
どのような職業なのかと尋ねる。
口を真一文字に結ぶジャイルとは対照的に、ドインが答えた。
「ギルガ神聖国にいる神がかった戦いをする奴だ。レベルは低いが強ええぞ。」
「そんなにか。レベルが低いのに何で。」
「レベルありきの力任せとは違うんですよ。」
ジャイルが渋々説明する。
「力を入れるタイミング。重心のずらし方。色々あるんです。」
「俺に教えてもらうことは。」
「出来ませんね。教えるのは我が国の騎士団のみです。それにレイ殿はシュミム王国との繋がりがありますしね。」
「わっふ。」
どうやらレイは教えてもらえないようだ。
分かりやすく落ち込むレイに、ジャイルがヒントを出す。
「私は教えられませんが。そうですね。ハリナ殿に聞くと良いです。」
ハリナはどうやら剣聖について何かを知っているらしい。
なるほど、確かにハリナの剣さばきは綺麗で、レベルの割には中々強い。
帰ったら早速ハリナに教えてもらおうとワクワク考えるレイを尻目に、ドインがジャイルに尋ねた。
「で剣聖の行方は分からねえのか。」
「20年ほど前、任務中にお亡くなりになったと。」
「死体は見つかんねえって聞いたが。」
「相手はキングリッチです。良くて相打ちかと。」
「そうか。残念だな。」
「そうですね。惜しい人を亡くしました。」
どうやら剣聖は20年前に死んだらしい。
レイたちはドインに追い立てられるようにタリカ領へと帰って来た。
「どうやらドイン領は大丈夫そうだな。」
心なしかタリカがホッとしている。
やはり敵国とは言え市民の惨状を見るのは耐えられないのだろう。
「魔族のことは気がかりです。すぐ王に報告しましょう。」
「そうだな。何企んでるか分からんからな。」
「はい。タリカ様も警戒を怠らぬよう。」
「分かった。肝に銘じておくよ。」
ジャイルは王都を離れていることが気がかりなのか、一旦帰るようだ。
レイはジャイルと握手を交わし、トムたちの待つ家へと帰っていった。




