16、ローミ領の今
ローミの町は転移魔法陣のある場所から離れているため、着いたのは夕方だった。
町全体が酒や汚物の匂いで溢れている。
レイたちは口と鼻を口で覆いながら、冒険者ギルドへと向かう。
レイはローミと会ったことがあるため、カツラを着けて変装していた。
久しぶりにレイナになったレイは、タリカ・ジャイルと共に冒険者ギルドへと向かう。
トムも付いて来たがったが、トムも町の住民に知られている可能性があるためレイたち3人だけで来た。
ローミの町が以前ドインから聞いた通りヒドい有様だ。
あちらこちらで酔いつぶれた冒険者が倒れており、町中に異臭が漂う。
酔いつぶれた冒険者たちを起こしているのはドインの部下のようだ。
ローミ配下の兵がどこにいるのか分からない。
冒険者ギルドは夕方になると一仕事終えた冒険者たちで溢れかえっているはずだが、ここは閑散としている。
「すまない。ダンジョンの情報が欲しい。」
冒険許可証を見せながらレイは受付に尋ねる。
受付は黙って掲示板を指さした。
そこに書いてあるから見ろということだろう。
レイはため息をつくとタリカに目配せした。
3人は黙ったまま冒険者ギルドを出る。
「ドインに部下の詰所を聞いてるからそこに行こう。」
「…。」
臭いを極力嗅ぎたくないのか、タリカとジャイルは黙って頷いた。
シニフォダンジョン近くにある大きな一軒家を訪ねた。
元はAランク冒険者が借りていたそうだが、空き家になった後ドインの部下が借りているらしい。
門前にいる見張りにドインから紹介されたことを伝えると、少し待つように言われた。
ぼーっと待っていると、初めてドイン領に行った時トムに剣を突き付けたドインの部下が出てきた。
カツラを少し浮かせて顔を見せる。
どうやらレイのことを覚えていたようだ。
「お前か。何か用か。」
「久しぶりだな。ローミ領の様子を見に来た。」
「見りゃ分かるだろ。」
「詳しく聞きたい。」
ドインの部下は面倒くせえなという顔をしながら、ポリポリ頬を掻いていた。
「まっいいや。立ち話もなんだし。入んな。」
「感謝する。」
ドインの部下は門を開け、3人は家へと入っていく。
ドインの部下が複数詰めているためか、家全体が男臭かった。
レイたちは食堂に通された。
聞けばここしか落ち着いて座れる場所が無いらしい。
「直接町の様子を聞きたい。治安とか、ローミ領主はどうした。」
レイはいきなり用件を伝える。
ドインの部下はまどろっこしいことが嫌いだからだ。
部下は肩をすくめた。
「見ての通りだ。ペガルダンジョンが無くなった。強え冒険者がいなくなった。抑える奴らがいなくなって治安が悪くなった。まともな冒険者は全部ライバの町に行っちまった。」
酒を勧められたが断って、レイたちは水を飲む。
「冒険者ギルドも酷かったな。」
「ありゃダメだな。他から強え冒険者を連れてくるんはギルドの仕事だ。でも断られてるって話だ。職員も派遣されてきても直ぐ辞めちまう。無法地帯だよ。」
「酷かったら捕まえて犯罪奴隷にするのか。」
「もう犯罪するような気概の奴も残っちゃいない。酒に溺れるか、他の町にいられねえ訳アリでコソコソした奴しかいねえよ。今は酔っ払いを起こしたりダンジョンの間引きをするだけさ。」
「ローミ領主や衛兵たちはどうした。」
「逃げたね。ライバ領近くの町に。ちょっと良さげな町があっただろ。」
レイたちも以前通ったはずだが、そんな町があったかと首を傾げた。
「まあ、そこに衛兵と女と使用人と連れて籠ってるって話だ。領の運営なんてしちゃいねえ。」
「大変だな。」
「おうよ。魔族が襲って来ないのが、それだけが良かったことだ。他は最悪だ。」
いつの間にかドインの部下は酒を取り出し、グイッと飲んだ。
ドイン領では酒は貴重品だが、ここでは簡単に手に入る。
飲みすぎるのではとレイは心配になった。
レイの視線に気が付いたのか、ドインの部下が苦笑いする。
「酒に溺れちゃいねえよ。1日1杯にしてるさ。」
大体のことを聞いたので、レイたちは引き上げることにした。
レイはこの町にまだまともな宿があるか、ドインの部下に尋ねる。
「1軒だけ。まだ頑張ってる爺さんがいてな。少し待ってろ。紹介状書いてやる。」
紹介状を貰いレイがお礼を言うと、ドインの部下が不思議そうに尋ねた。
「つーか、何でお前女の格好してるんだ。まあ、似合うが。」
「ローミとトラブったことがあってな。会いたくなかったんだ。」
「そうか。女がらみだな。」
女がらみではないのだが、とりあえず否定せずにそのまま屋敷を出た。
日が沈みゆく中、道を歩いていく。
相変わらず、そこら中に酒と汚物の匂いが漂っていた。
町の門近くの裏通りにある宿に着くと、頑丈な扉の小窓から、頑固そうな老人が顔を覗かせた。
レイはドインの部下から貰った紹介状を見せる。
胡散臭そうにしていた老人は、紹介状をジロジロ見ていたがホッとような顔をして扉を開ける。
「らっしゃい。すまんな、最近入ってこようとする酔っ払いが多くてな。」
「いいんだ。3人良いか。」
「おうとも。あんまり食事に期待すんじゃねえぞ。料理人が辞めちまってな。」
「パンと酒があれば良いさ。」
「で部屋数はいくつだ。」
「続き部屋はあるか。」
「1つある。」
「じゃあ続き部屋とその隣にある部屋を1つ。」
「おう。案内する。その前に料金払ってくれ。全部で7000ゴールドだ。」
レイは大目にと1万ゴールドを渡した。
老人は目を大きくして金を突っ返す。
「こんなにいらねえ。舐めんじゃねえぞ。」
「余分な金で食事を豪華にしてもらえないか。腹減ったんだ。」
老人は少し考えていたが、貰った金を握りしめて懐へとしまう。
「あんがとな。じゃ、こっちだ。」
老人に案内され、部屋へと入る。
タリカとジャイルが使う予定の続き部屋もレイの部屋も綺麗に整えられ、快適に眠れそうだ。
夕食時パンとブドウ酒の他に、焼いた塊肉とスープが出てきた。
期待するなと言われたが、どれも美味い。
レイたちは美味い食事で腹を満たすと、それぞれの寝室へと入っていく。
満足なまま眠れるかと思っていたが、外から酔っ払いの奇声が聞こえてくる。
定期的に奇声が聞こえてきて眠れないまま、夜が更けていった。




