14、キッコーリ町の今
ドインとジャイルが対峙した翌日、レイはトム・タリカ・ジャイルを引き連れて久しぶりにキッコーリの町を訪れた。
タリカとジャイルは目立たないよう、冒険者のような恰好をしている。
キッコーリ町に来たのはどのような様子なのか確認するためだ。
タリカとジャイルが敵国を探るためでもある。
シュミム王国は敗戦後、ますます悲惨な状況になっている。
「お前さんたち、よお来たのお。」
おたまを持ったエプロン姿のキッコーリ町長が台所から姿を現す。
相変わらずおたまを持っているなと思いながら、レイはタリカとジャイルを冒険者仲間として紹介した。
「おお、初めてじゃの。わしはキッコーリ。町長しとります。レイとトムとは長い付き合いでの。立ち話も何じゃから座りなされ。」
応接室に通され、各々好きなところに座る。
「キッコーリさん、これ。」
レイは魔法袋をキッコーリに渡した。
中には食料やポーション等必要な物がぎっしり入っている。
「有難い。後で酒と木を渡すからの。」
「はい。で最近はどうですか。」
「王都はもう駄目じゃな。店がほとんどないし人もおらん。こっちが今は商売の中心になっとる。」
「繁盛してますか。」
「繁盛しとるというより、もうここ以外ではろくに町が残っとらん。小さな町や村はみんな潰れたよ。食料やら薬やら必要なもんが全然足りん。」
悲しそうにキッコーリは首を横に振った。
タリカとジャイルが視線を合わせ目配せする。
「人はどうですか。」
「行く当てのある奴は皆他の国に行ったよ。で行く当ての無い奴がどんどんこの町に来よる。今は断ってる状況じゃ。」
「厳しいですね。」
「一応他の国で奴隷としてだったら当てはあるって説明しとるがの。好き好んで奴隷になる奴はいまいて。」
「そうですね。このお茶飲んだらちょっと町見て良いですか。」
「もちろんじゃ。皆に声かけてやってくれ。ノムやトモさんやリーツが会いたがってたぞい。キッコンもな。」
懐かしい名前が出て思わずレイが微笑む。
リーツとトモは、レイたちが王都で最初に泊まった宿屋の主人だった。
兵士たちに宿を壊され、スミスと共にキッコーリ町にやって来た。
アアナさんの夫ノムと子供たち。
村にノムさんたちが経営する宿屋兼食事処が1軒だけだった時、ほとんど毎日通い詰めた。
会った後にアアナさんの墓参りをしよう。
キッコーリに別れを告げ、家を出るとキッコンに会った。
キッコーリの息子であるキッコンは少し疲れているようだが、レイとトムを見て笑顔である。
「最近忙しくてね。町が大きくなったから。」
次期町長でもあるキッコンは、町の維持に忙しくしているようだ。
他にも懐かしい面々と会い、町を出てアアナの墓参りをする。
町に来るときには気が付かなかったが、町の側に難民キャンプのようなところが出来ていた。
皆一様にやせていて、虚ろな目でこちらを見ている。
「思った以上に悲惨だな。」
タリカが呟いた。
「後であそこにスミスとチルを派遣する。」
一旦中止していたレイの奴隷への勧誘を再開するべく、スミスとチルを難民キャンプに向かわせようと思う。
「そうか。レイはこうやって奴隷集めてたんだな。」
「うん。最初は奴隷商から買ってたが、最近は勧誘してる。」
「奴隷に勧誘とは。レイ殿、上手くいくのですか。」
ジャイルは懐疑的なようだ。
「なので顔が広く、この国で信用のあるスミスに担当してもらってます。他にも伝手ある人に。」
マルチ商法のような集め方だが、全く面識のないレイが声をかけるよりも成功率は高い。
「レイ。他の町や村も見てみたい。他の魔法陣は使えるか。」
「王都は良いのか。」
「王都は見つかるリスクがまだあるからな。後でまた来よう。」
「分かった。」
ドラゴンダンジョンは昨日から休眠期間に入っている。
再開するまでの1週間、レイはシュミム王国各地を案内することになるようだ。
魔法陣からタリカ領に戻る前、トムは心配そうにキッコーリ町の方を振り返った。
これからこの国はどうなるのか。
誰も分からない。




