13、ドインVSジャイル
「何故あなたがいるんです!」
「あん?良いじゃねえか。固えこと言うな。」
「しまった…。」
ジャイルが掴みかからんばかりにドインに詰め寄っている。
騒ぎを聞きつけたレイは2人の姿を見て、自分が『やってしまった』ことに気が付いた。
ドラゴンダンジョンの前で2人は対峙している。
ジャイルは事前にレイから許可をもらい、騎士団を引き連れてやってきた。
だが突然ドインが部下を引き連れて現れ、鉢合わせになった。
「タリカ様はどこだ!説明を求めたい!」
ジャイルは大声でタリカの部下に指示を出している。
どうやらタリカが敵国の大領主に入国許可を出したと思っているらしい。
部下に呼び出されたタリカは物陰から事の経緯を見ていたが、こっそりレイを呼んだ。
「おい。レイ。説明しろ。」
観念したレイは、転移魔法陣がシュミム王国の複数箇所にあって拠点の地下に繋がっていること、その1つがドイン領にあり鍛錬のためにドインがダンジョンを使わせてほしいと言ってきたことを説明した。
「マズいな。つーか転移魔法陣なんて恐ろしいもん作んなよ。」
タリカの声色からも焦っていることが分かる。
「どうやって説明すんだよ、これ。」
「俺が出て行ってジャイルさんに説明するしか無いですね。」
「レイがジャイルに捕まるだけだぞ。」
レイとタリカが揉めている間、ドインとジャイルもヒートアップしていたようだ。
「武器を構えろ!ここで始末をつける!」
ジャイルが剣を抜いてドインに突き付ける。
「おう、やったるか。人間とやるのは久しぶりだ。」
ニヤリと笑ったドインが槍を構えた。
「マズいですよ。ジャイルさんが死んじゃう。」
魔族と戦い続けレベルが人間離れしたドインに、ジャイルが負けるのではとレイは焦っていた。
止める間もなく、2人は戦い始める。
高速の金属音が聞こえてくる。
以前見たドインと魔族の戦いと同じように、レイでは2人の戦いは全く見えない。
「凄いですね、ジャイルさん。互角に戦ってる。」
「まあな。」
レイが感心する様を見て、タリカが自慢した。
「ジャイルさんもかなりのレベルなんですね。」
「いや。レベルはレイよりも下だぞ。」
「嘘!」
「嘘じゃない。たまにダンジョン潜って間引きするだけだからな。魔物と戦い続けるお前とは差があると思うぞ。」
「でもバケモンと互角ですよ。」
「バケモンって。」
ドインをバケモン呼ばわりするレイに呆れている。
そんなタリカに対してレイは興味深く戦いを見ている。
「どうして互角なんだろ。」
「さあな。終わったら本人に聞いてみろ。」
「そうだな。戦い早く終わると良いな。」
「それよりも言い訳考えろ。場合によっちゃ、お前、捻り殺されるぞ。」
「ひえ…。」
レイが焦る中、ドインは戦いながらジャイルに話しかけていた。
「おめえ、やるじゃねえか。」
「集中しろ。戦いの最中だぞ。」
「まあ。レイを責めるな。俺が無理に頼んだんだ。」
「大罪には変わりない。」
「俺の領に魔族が全く来なくなっちまってな。」
「何?何故だ?」
「分からん。が不気味だろ。」
「それでも他にもダンジョンが。」
「ローミん所のペガルダンジョンが無くなった。」
「何?何故だ?」
「分からん。が不気味だろ。」
「魔族の仕業か?」
「だから分からねえって。でももしかしたらそうかもな。そしたら俺たちゃレベル上げられねえし。」
突然ジャイルが動きを止めたため、ドインは「うおっと。」と言いながら前につんのめった。
ジャイルは剣を納めると、
「レイ殿、いるか。」
とレイを呼び出す。
レイは渋々ジャイルの前に出て、ドインが転移魔法陣を通って来ること、魔族が襲って来なくなり鍛錬のためにダンジョンを使わせていることを説明した。
ジャイルはしばらく考えていたが、キツい口調でレイを問いただす。
「レイ殿は大変な事をしましたな。転移魔法陣とは。」
「申し訳ございません。」
「敵国の大領主ですよ。」
「はい。」
「ですが…。」
と不意にジャイルの口調が変わる。
「ドイン殿は魔族と戦い、我々人間を守るお方でもある。…まあ、今回は大目に見ますがね。次問題を起こしたら咎人として捕らえます。」
「はい…。」
「それと転移魔法陣とやらを確認します。後で砦に来るように。」
ジャイルは深々と頭を下げるレイからタリカに視線を移す。
「見つかった。」
「見つかったじゃありません。タリカ様、少々お話したところがあります。鍛錬が終わったら砦に伺いますので。」
「はい…。」
「おう。じゃあ一緒に潜るか。」
槍を担いだドインが近づいてきた。
「そんな訳無いでしょう。ドイン殿はお引き取り下さい。」
「ちぇ。」
意外なことにドインは引き下がるようだ。
レイはジャイル達騎士団をドラゴンダンジョンに案内した後、ドインたちを転移魔法陣へと連れていく。
ジャイルはドラゴンダンジョンで戦っている最中、何かを考えているように眉間に皺を寄せていた。




