5、裁判
レイとハリナは朝食を食べた後、ギルガ神聖国の兵士に連れられて裁判が開かれる塔へと向かった。
朝食の味がどんなものだったか分からない。
そのくらい2人とも緊張している。
レイは裁判塔へ向かう前、絶望的な目でトムと見つめた。
「いってらっしゃい。タックたちと留守番してますから。終わったら美味しいもん食べましょ。」
トムの言葉に幾分か気持ちが和らぐ。
裁判塔に着くとタリカたちから隔離され、狭い控室のような部屋に通された。
兵士に見張られているため、2人は会話をせずにひたすら座って待っていた。
実際には30分程度だったが、レイたちにとっては何時間も経ったような気がする。
兵士に呼ばれて控室から出ると、大きな部屋へと案内された。
中央に証言台があり、それを取り囲むように幾段にも並ぶ机を前にギルガ教会の僧侶と思しき人々が20人ほど座っている。
皆一様に険しい顔をしており、重苦しい雰囲気が漂っていた。
レイたちの後ろにはアッカやタリカがいるはずだが、振り返ることが出来なかった。
レイとハリナは証言台近くの椅子に座らされて、静かに待つ。
やがて高位の僧侶らしき人が開始の宣言をする。
注意事項を読み上げた後、まずはハリナから証言が開始された。
ハリナが受けた仕打ちが淡々と読み上げられた後、内容に相違ないか聞かれる。
「間違いありません。」
ハリナが青白い顔で言った。
すかさず3列目に座っていた男が手を挙げ、ハリナに質問する。
「手足を切り落とされたということだが、そのようには見えないな。」
「これはレイ様に治していただいたのです。」
ハリナの言葉に部屋全体がざわついた。
『奇跡』という言葉がチラホラと聞こえてくる。
高位の僧侶が咳払いして皆を黙らせた後、捕虜になった商人や冒険者の証言が読み上げられた。
突然シュミム王国の王都で誘拐され、城の地下室に閉じ込められた。
最低限の食事しか与えられず、衰弱した者が多い。
中にはそのまま倒れて死んだ者もいたらしい。
シュミム王国の悪事が次々と暴かれる中、最後にレイが証言台に立たされる。
事前に証言を取られていないレイはどのような証言をするのかと思っていたが、この場で質問に答える形式で行われるようだ。
最前列中央に座っていた僧侶がレイに質問する。
「まずはお名前を。」
「レイです。」
「出身は。」
「シュミム王国で召喚されました。」
『召喚』という言葉に僧侶たちが反応する。
「シュミム王国で召喚された勇者なのにアッカディー王国にいるのは何故ですか。」
「召喚された時のステータスが低くて追い出されました。」
「王都で盗みを働いて追い出されたと聞きましたが。」
「濡れ衣です。スミスという鍛冶職人に聞いてもらえれば分かります。」
「ふむ。でもアッカディー王国にいる理由にはなりませんね。」
「シュミム王国が自分を探してると聞いて逃げました。」
『逃げた』という言葉に反応して、質問の口調がきつくなる。
「シュミム王国で召喚され、呼び出されているならば応えるべきでは。」
「キッコーリ村のオーク襲撃で王国に不信感を持ったからです。」
「どういうことか詳しく。」
レイは勇者と呼ばれた3人がオークの軍勢の殲滅に失敗したこと、王都が襲われそうになった時転嫁魔法でキッコーリ村を襲われたことを話した。
「そしてお世話になっていた方が死にました。」
「それで嫌気がさしたと。」
「はい。」
「嫌気がさしてアッカディー王国に逃げたことは分かりました。ですが勇者の方々を殺したのは何故ですか。」
「戦争でしたし、抜け道を通って町を襲おうとしたからです。」
「ふむ。でもあなたと勇者3人とでは強さが違いすぎませんか。生け捕りにすることも出来たでしょう。」
「それは…。」
初めてレイが言葉を詰まらせた。
その時を待っていたかのように追及が続く。
「シュミム王国の悪行は正さねばなりません。ですが、勇者とは魔族に対抗する希望でもあります。殺してしまったことで今後魔族との戦いが不利になるとは思いませんでしたか。」
黙ったままのレイを僧侶が更に追求しようとしたその時、
「ちょっとよろしいですか。ここからの説明は私が。」
ニコニコしながら手を挙げたアッカが立ち上がった。




