3、ギルガ神聖国
2週間の快適な旅が終わりに近づいたころ、馬車の中でウトウトしていたレイは興奮するトムに起こされた。
「レイさーん。凄いっすよ。起きてください。」
「んあ?」
レイがよだれを拭きながら起き上がると、トムが窓の外を指さす。
ジャミは既に外を見て歓声を上げている。
レイも窓に顔をくっつけながら外を見ると、前方に複数の高い塔が見えてきた。
いくつかの高い塔に取り囲まれている中央の塔は雲を突き抜けており、一番上が見えない。
「あれがギルガ神聖国の神殿だ。中央が神が住む塔で、頂上の神殿に住んでいるそうだ。」
タリカの説明が聞こえていない程、皆興奮している。
そんな中1人だけ落ち着いている者がいた。
ハリナだ。
彼女は青白い顔で前方を見つめている。
ギルガ神聖国に来たということは、彼女が証言する時が近づいていることを意味している。
「ハリナ。顔色悪いぞ。休むか。」
彼女の様子に気が付いたレイが声をかける。
「申し訳ございません。少し酔ってしまって。」
「着いたら休もう。」
「はい。申し訳ございません。」
ハリナは酔ったと言っているが、そうではないことをレイは知っている。
思い出したくないことを強制的に思い出さなければならず、また衆目にさらされることが苦痛なのだろう。
レイの手がわずかに動いた。
彼女の手を握ろうかと思ったが、今の自分は男であることを思い出しレイは手を戻す。
馬車に揺られながら国境の門を通り過ぎ、そのままギルガ神聖国へと入っていく。
ギルガ神聖国は小さな国で、森や畑といったものが無い、大きな1つの町のようだ。
道沿いに建物がせり出すように並んでおり、広い道を多くの人々が行き交っている。
道行く人は皆豪奢な服を着ており、冒険者風情は1人もいない。
中央に建つ複数の高い塔の1つに馬車ごと入っていく。
「ここが俺たちが泊る場所だ。明日裁判が開かれるまでゆっくりしとけ。」
タリカがどっこらしょといった感じで馬車から降り、大きく伸びをした。
「そうだ、レイ。」
タリカがレイの方を向く。
「今日、俺の兄貴に会ってくれ。もう着いているはずだ。」
「兄貴って。国王の。」
「そうだ。他に誰がいる。」
レイは思わずトムの顔を見た。
トムは肩をすくめて反応する。
レイは心の準備がないまま、アッカディー国王と会うことになってしまった。




