2、ギルガ神聖国への旅
今レイの目の前には、ふさふさした黒い尻尾が長短2本ぶら下がっている。
「にゃっにゃっにゃっ。」
「早~い。」
「アレス、重い。下りてくれ。」
「わふう。」
「下りる気無いな。」
アレスはレイの膝上から下りるつもりは無いようだ。
リザードホーズの引く馬車が軽快にアッカディー王国内を移動している。
レイはハリナと共に急遽ギルガ神聖国に行くことになり、トムの他にタック・フクン・アレスとジャミが同行することになった。
「すっげえ。快適~。」
ジャミは斥候としての役割を放棄して、馬車の中で寝っ転がっている。
実際ギルガ神聖国への旅は快適で、上質な宿屋に泊まれるし、王侯騎士団が魔物を排除するためレイたちが警戒する必要も無い。
「あと2週間ほどで着きますかな。」
トムはアッカディー王国内の地図を広げて眺めている。
ギルガ神聖国は大陸の中央部に位置し、アッカディー王国やラガッシュ帝国、その他多くの国と接している。
ギルガ教会の本部があり、僧侶のための学校があるそうだ。
ロックウッドの僧侶サクソウやセイクルズの僧侶キミイもこの学校の出身である。
レイは猫の尻尾の隙間から外を眺めていた。
巨木に覆われるように町や村があるシュミム王国や荒れ地が広がるタリカ領と違い、見渡す限り畑が広がっている。
多くの穀倉地帯と工業地域を抱え、大陸有数の豊かな国として知られているアッカディー王国は、なるほど街道は隅々まで整備され、小さな村であっても高く固い防壁に守られていた。
「豊かな国だなあ。」
「そうだろ。貧民は1人もいない。」
レイの独り言をタリカが拾う。
アッカディー王国で調達できないものは建築用の巨木くらいで、それだけは仕方なくシュミム王国から輸入していたようだ。
ほとんどの国に様々な物を輸出し、経済大国としてギルガ神聖国に一定の発言権を持っている。
木以外にまともな輸出物の無かったシュミム王国が、アッカディー王国を攻め込もうと勇者を召喚したのが分かる気がする。
レイたちを乗せた馬車は、軽快に街道を走っていく。
裁判で証言することについては気が重いが、レイはこの快適な旅を楽しむことにした。




