56、親子
ポッタが解放された捕虜たちの間をかき分けていく。
1人の傷ついた男を見つけると、叫び声をあげた。
「ムカウ!」
「父さん!」
2人は泣きながら抱き合う。
その光景をレイとトムは遠くから眺めていた。
「良かったっすね。無事で。」
「そうだな。トムも無事で良かった。」
「あんな連中に負けるわけないっしょ。」
「それもそうだな。」
ひとしきり泣いたポッタ親子がレイたちに近づいてくる。
「ありがとうございます。なんとお礼を言ったら良いか。」
「ポッタさんにはお世話になったんで。当然のことです。」
「これからどうすんすか。アウドの町に帰るんすか?」
トムの問いにポッタは首を横に振る。
「もう店は畳みました。あの国にはいられませんし。別の国でのんびり商売をしようかと。」
「そうですか。」
「少し落ち着いたら旅に出ます。ムカウと一緒に。」
ポッタはムカウの頭を撫でた。
「妻の忘れ形見でね。息子に万が一のことがあったら妻に顔向け出来ません。」
ポッタとムカウは深々とお辞儀すると、砦から出ていった。
至る所で歓声や泣き声が聞こえてくる。
行方不明になった家族を見つけて喜ぶ者。
家族を見つけられず名前を叫びながら探し続ける者。
保護した捕虜たちのいる部屋は、喜びと悲しみで満ち溢れていた。
レイとトムは砦から出てアウドの町に向かう。
砦とアウドの町の間にある空き地には、シュミム王国の兵が縛られて座らされていた。
タリカの部下とロックウッドが人数を数えたり、身元の確認をしている。
「兵たちはどうするんだ?」
「金と交換かな。払えないんだったら奴隷にする。」
レイの問いにロックが淡々と答えながら仕事をしている。
離れた所では、死体が整然と並んでいた。
サクソウが祈りの言葉を唱え、終わり次第火葬するのだろう。
レシーアと魔法部隊がサクソウの後方に控えている。
「レイ。」
ミナが近づいてきた。
「ミナ。お疲れ。ミナが持ってきてくれた情報のおかげで助かった。」
「うんにゃ。斥候として当たり前だよ。早く終わって良かった。」
疲れているが表情が明るい。
実際ミナがもたらした情報のおかげで戦争が早く終わった。
勇者と呼ばれた3人がタリカ領の侵入に成功していたら、人質を取られた上に挟み撃ちにされて長引いていたかもしれない。
タリカ領側に犠牲も出ただろう。
「レイさん。トムさん。」
ゴザも笑顔で近づいてきた。
「ゴザ。お疲れ。」
「そんな疲れてないですよ。ほとんどトムさんが倒してくれたし。」
ゴザは力が余っているようで、腕をグルグル回している。
「レイさんもトムさんも休んでください。疲れたでしょ。起きた頃には大体終わってるはずです。」
「それが良いよ。騎士団長やら勇者やら相手して疲れたっしょ。」
「ミナも休め。働きづめだろ。」
「うい。」
2人の会話を聞いていると東の空が薄らと明るくなっていく。
「夜が明けますね。」
トムが空を見上げている。
「帰ろうか。マールさんと3匹、待ってるだろうし。」
「はい。」
2人は肩を並べて砦へと入っていった。
東の空が徐々に明るくなっていく。
今日は晴れた一日になりそうだ。




